BATON
〜家族〜
 
なにもない空間。
僕はそんな場所にいる。
真っ白で他になにもなく、ただ僕一人。
どこが上なのか、前なのかわからない。
『ササ』
と呼ぶ懐かしい声。
その声はとても心地よい。
僕はそのトーン、その口調で呼ばれるのがとても好きだ。
『ササ』
もう一度呼ばれる。
その声のした方を向く。
そこには純白の衣装を着飾った一人の少女がいた。

君はなぜここにいるの?

『神様にお願いしたの』

なんて?

『ササが元気じゃない時はササの近くにいたいって』

僕は元気だよ

『だから神様の目を盗んできたの』

相変わらずだね

『ふふっ。そうかな?』

でもおかげでもっと元気になれた気がするよ

『ん・・・』

僕、フルートうまくなったんだ。高校の時なんてこのフルートで賞を取ったくらいだし


僕はいつの間にか手のなかにあったフルートを見せる。

『それはわたしの・・・そっか、ササがその子の面倒見てくれてるんだね。うれしいな』

うん


そのフルートにはK・Keiと刻まれている。

『ねぇ、それで私の音楽、吹かせてもらえる?』

もちろん、これは君のものだし。

『ううん、もうあなたもこの子の友達。そしてパートナー』

そう・・・かな?


少女はこくんとうなづき、フルートを手に取る。
彼女が触れるとフルートは二つにすっと分裂したように同じものが彼女の手にあらわれ
た。

そして僕らは二人で音を合わせる。
そして二人は音楽を奏でる。



そして僕は目をさます。
いつもと同じ、変わらぬ景色。
ただ、時だけが止まらずに進んでいる。

僕は久し振りに彼女の写真を手に取り眺める。
僕らは時間により姿かたちが変わっていく。
だけど、君だけはあの頃のまま変わらない。
僕は時間に流されていくことに悲しさを感じたりすることもある。
しかし立ち止まれない。
僕は決意しあの頃から歩き出したんだ。
ケイのフルートと共に・・・



大学内は音大ということもあり外ではいろんな音が聞こえる。
中に入れば防音設備があるんだけど、外まではさすがに効果がないらしい。

その音の中にひとつ気になる音色があった。
あの音と同じように澄んだ音。

僕は音のする方へ無意識に走っていく。
いるはずもない、あの人の音似にていたから。
あの人のように心に響く音。



ドアをいきなり開けてしまったせいか、演奏は止まってしまった。
「えっ!?」
奏者はびっくりして振り返る。
「えっ・・・笹原さん?」

よく見ると演奏していたのは嵯峨野さんだった。
僕はたまらず。
「その音!」
といった。
嵯峨野さんは
「ああこの音ですか?あるフルート奏者と同じように
吹こうと思ってずっと小さい頃から
練習してたんですよ」
「・・・黒崎恵・・・」
僕はその名前を口にする。
「そうです。聞いただけで分かるなんてすごいです。
それにしてもあんなに上手にフルートが吹けたのに
あんなに早く亡くなってしまうなんて・・・」
僕には分かった。
嵯峨野さんはケイが死んでしまったことを本当に悲しく思ってくれている。
しかしそれは個人では無く音楽、フルートの恵であり、ケイをさしていない。


わかってはいるけどそのことがとてもつらい。

「どうかしたんですか?音につられて来ちゃったんですか?
うれしいですー似てますか?『音楽』ですか?」

「うん・・・でも・・・」
それはケイの『音楽』では無かった。



「なあ、ササ。アケミちゃんだっけ?その子に伝えて欲しいことがあるんだけど」
長瀬君は言う。
なんでかこの前から様子がおかしい。
おやじギャグも言わなくなったし。

「いっとくがやましい気持ちは何もないぞ!」
はいはいっと。
「それでなに?」
僕は長瀬君を見上げる。
僕の身長と比べて四十センチくらいたかい彼とはなすのは結構首が疲れる。
・・・・・・・



はっ!鬱モードにはいってしまった!
いかんいかん

「今度の日曜日に映画でもって」
「・・・おもいっきりやましいじゃないか」





昼食時、僕はある人の顔を見る。
「あっ、笹原さん」
早川君だ。
「やっ、となりいい?」
「はいどうぞ」
僕は早川君の隣りにある席にすわる。

「そういえば聞いたよー高校時代生徒会長やってたんだって?
みかけどうりだねー」
「よくいわれます」
早川君は笑いながら言う。
「そうだ。またルナちゃんにあったよ」
僕には今あまり話すネタがなかったのでルナちゃんにあった時の話をした。
「そうですか・・・あの時イイ話きいたって
はしゃいでたなー・・・謝ることより感謝をしよう。
ごめんなさいよりありがとうですか・・・
やっぱり笹原さんだったんですね」

早川君はニヤッとこっちを見る。
あの時と同じ顔。
「ルナのことよろしくお願いしますね。末永くお幸せに・・・」
まってください。
「だからー君の考えているのは早とちりし過ぎだし、
そんなことで兄が認めちゃダメでしょ」
と僕は冗談半分の反論をする。
早川君は続ける。
「いえ、僕はちゃんと考えて・・・」
いきなり会話が止まる。


なんだか早川君苦しそうだ。


「ちょっと、・・・すいません!」
とリュックから何かを取り出しそれを持ち早川君はトイレに入って行く。
取り残された僕は何だか不安を感じていた。



「すいません、気管にご飯が入って・・・」
それだけであんなに時間が掛かるとは思えない。
しかし僕は、
「ふーん気をつけてね。それって結構つらいから」
と言ってしまう。
「・・・でさっきの話の続きですが」
続くのー!?
僕はその話に結局最後まで付き合わされることになった。
しかも結局誤解は解けなかった。
僕は話している早川君がさっきよりも無理やり元気に話しかけているように感じて少しつ
らかった。



僕は家に帰るとちょうどアケミちゃんがいた。
長瀬君の話をするか。
って今度の日曜は明後日じゃないか!
やばいな・・・
こういうことは慎重に言わなくては・・・
言葉を間違えると断られる。
って長瀬君だからいいか♪
どうなっても知らないっと。
断られよーが僕には何も非はない。
よし!
「アケミちゃん、明後日ってー・・・暇?」
と突然切り出す。
「えっ?ひまですけど・・・」
少し驚いた様子。
「僕の友達が映画に行かないかって・・・アケミちゃんどう?」
うん、断られる会話の仕方ベストテンにはいるくらいの
会話の仕方、だけど僕は気にしない。
だって僕は関係ないのだから♪
「いっ行きます!」



予想範囲を大きく外れる答え。

思わず耳を疑う。

「・・・なんて?」
「行きます!」


今度ははっきりと聞こえた。
まじ?
「嫌なら無理してこないでもいいんだよ?受験勉強とかで・・・」
「何ごとにも休息は必要です!それに・・・笹原さんも行くんだったら・・・」
と言った途端にアケミちゃんは赤くなり部屋に駆け込む。


なんですか?この展開は・・・
「あらあらあらあら、ナンパですかぁ?」
翔子さんは言う。
「あの子をターゲットにするとは・・・主人にもライバルができましたねー」
このひと素で何か恐ろしい発言を連続でいったような・・・

「頑張ってくださいね。応援してます♪」




応援してほしいのは長瀬君だ・・・





日曜日、


「ホンジツワーオヒガラモヨクーゼッコウnoエイガビヨリday−」
長瀬君は壊れている。
僕はアケミちゃんに心の中で謝る。
ごめんいつもこんな鉄みたいに堅くないんだ。
ゴムみたいに・・・グミみたいにやらかい奴なんだ。

アケミちゃんはその後、長瀬君と一定の距離を置くようになった。
長瀬君が直った(誤字ではない)あと、
「今からみる映画って何ですか?」
とアケミちゃんは僕の後ろに隠れながら聞く。
「それは今の若者の最先端をいく映画!音楽を知るものなら誰もが見ると言うあの映画!
BATON2だ!」


・・・その映画は・・・



僕たちは映画館の中に入る。
「なんでお前がいるんだよ!ササ!」
気付くのおそっ!



そして映画は始まった。
今度の舞台は無名の地方校。
ある一人の男の子が吹奏楽部を立ち上げるために部員を集める。
その子のパートはフルートで自身はぜんぜんうまくなかった。
ある日、部員が一人も集まらずに一人で練習していると一人の女子が出てくる。
「だめだめーそんなんじゃー。フルートに対する侮辱でしかないよ」



「・・・・・・ごめん、アケミちゃん、長瀬君、僕・・・外で待ってる」
僕はたまらず上映フロアから出る。



ロビーには上映時間のため人があまりいなかった。
あいているベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。
そして僕は一人でうつむきながら考える。
世界中で喜劇映画を見て悲しむ人なんて数えるほどだろう。
僕もその中の一人。

どうしてもあのことを思い出してしまう。
悲しむのは僕が弱いからなんだ。
強くならないと。



「笹原さん」
うつむいて座っていると声を掛けられた。
顔を上げるとアケミちゃんがいる。
たまった涙を手でぬぐう。
「やあ、まだ映画終わって無いよ。早く戻って見なきゃ」
僕は笑顔を作って見せる。
そして手で上映している場所を指す。

その顔を見てアケミちゃんは悲しい顔をする。
「この前の家での時もそうだった・・・
あなたは何を背負っているんですか?
何を思い出したんですか?教えてください・・・」
と悲しい顔のまま問い掛けてくる。

「・・・大したことじゃないんだよ・・・全然・・・」
僕はまたうつむいた状態になる。
「嘘・・・話してください・・・それとも私には知る権利はないんですか?」
権利とかの問題じゃない。
ケイのことで僕は人にあわれんでもらいたくないんだ。
そんな僕へのあわれみは価値の無いもので、人をかなしくさせるだけのものだから。
「ごめん、権利が無いというか、聞いて欲しくないんだ。僕らのことなんて」
「僕ら?」
つい僕は自分一人のことではないことを明かしてしまった。
「やっぱり・・・こういうことは話した方がいいですよ・・・
なんせ私たちは・・・家族じゃないですか。
昔の言葉に一人の仲間がいれば嬉しさは2倍になり、
悲しさは半分になるって・・・」
このこは・・・

「・・・だから話してください。私があなたの悲しみを半分にしてさし上げます」
アケミちゃんは胸に手をかざし笑顔で言う。
「・・・・・・ありがとう・・・アケミちゃん・・・」
僕は顔を上げ笑顔になる。
「長くなるんだけど・・・いい?」
「はい・・・お願いします・・・」


そしてアケミちゃんに話すことにした。
僕らの過去・・・


あの人から僕に渡ったバトンの物語。
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