Magenta
転校生『で』やってきた
「・・・なんていうかあれだな、二年になって転校するとなると・・・絶対なにかと言われるに違いない」 俺は荷物をときながらそんなことを考えていた。 しかも一人暮らしと来たものだ・・・ 今の時代ではそんなに苦労するものではないが、料理とかを毎日考えなければならないと思うと憂鬱だ。 部屋の数は二つで玄関を入ってすぐの廊下に備え付けられたキッチンにトイレ、風呂がある。 その廊下の奥にリビング・・・とは言ってもとても小さなものと、寝室がある。 一人で住む分には部屋は一つでもいいのだが、月が七月と言うこともあり、ここしか残っていないと言うもので選んだのだ。 引越しには必要最低限のものだけを持ってきたからそんなに疲れないんだが・・・ とりあえず服と布団、そして食事以外の生活最低限のものを荷物から出す。 ノートも出しておく。 便利になったもので持ってくるだけでマップデータが上書きされるとか。 普通の人は一定の住居から移ると言うことは無いんだが・・・ 「もういいか・・・疲れたから寝よう・・・」 荷物ときも早々に切り上げ、眠ることにした。 その場の流れだ、どうせ一人暮らし。 誰が自分の行動を制限しようものか。 いや誰もいない!! そこが一人暮らしの醍醐味ともいえるのではないであろうか。 とめるものがいない・・・ うむ、いいものだ。 そして俺は敷いたばかりの布団へと入っていった。 外から入ってくる光によって俺は目を覚ます・・・ 窓からの遮光を忘れていた。 だが、実際にはいい時間であり、たいした問題ではない。 俺の寝起きはいいほうで、いつも一度目を冷ますとすぐに起きあがることができる。 現在時刻午前六時ちょうど、まったく、いつもの通りである。 「・・・・さて・・・」 俺は服を着替える。 真新しい制服に身を包み、鏡を見て髪形を整える。 制服とはいったものの、ポロシャツ一枚と学生ズボンなんだが・・・ まぁそれはいい、早々に朝食をとり、(食パン)学校にて話があるためいつもとは大分早く家を出る。 通学路はノートを参考にすればすぐにわかる。 誰の案内も要らない・・・ 早くに出たため、町には静寂が流れていた。 上を見上げれば青一色・・・ はぁ・・・ため息が出る・・・ 引っ越したと言うもののこの風景だけは同じだ、味気ない・・・ どこにいても同じものがあれば安心すると言うが、コレばかりは安心も何もしない。 何の感情も湧かない。 綺麗だと思ったことも無い。 俺はノートを手に取り、学校までの道を目指した。 本屋、雑貨屋、生活用品店、喫茶店、レストラン・・・ 帰り道によって見るのもいいだろう、結構興味が湧く。 商店街らしく、道をまたいだアーチやら装飾品をあしらっている外灯がちらほらとある。 これは今までいた町にはなかったため、結構新鮮で面白い。 そう思いながらきょろきょろと周りを見渡し、歩いていると喫茶店の中から店員らしい女性が現れた。 そして目が合い、軽く会釈され、それを返す。 店前の掃除であろうか・・・ 商店街を抜けると、学校があった。 前の学校と似ている・・・というかまんま作りは同じだ。 立地の関係で多少は違うだろうが、設計者が同じなのであろう、代わり映えのしないことがプラスされうんざりする。 情報は手に入れていたので知っていたが、やはり実物を見ないとこのうんざり感は味わえない。 この経験はあまり味わえないであろうな・・・ まぁいい、職員室へ挨拶をしにいくか・・・ 「それで、新しい仲間、橘翔(たちばな しょう)君だみんな、よろしくやってくれ」 担任になるであろう先生にクラス2-B-1の生徒の前で紹介される。 「どうも」 俺は一応礼をしておく、 自己の詳細の紹介までする必要はないだろう。 俺も少し緊張していたりするからどうにか見逃して欲しいものだ。 「さて、クラスのみんなに溶け込めるように質問タイムと行こうか」 きた・・・お約束のものだ・・・ しかし、人づてに聞いただけだが先生が言い出すとはな・・・ はぁ・・・しょうがない、コレを耐えたら平穏な生活ができるようになるんだ・・・ 「はいはいはーい!!」 一人の男子がうるさい声で手を上げる。 その男子はいまどき珍しく高校でありながら髪の毛を染めていて、ニヤニヤと笑っている。 なんとなく、気が合わない気がする・・・ 「ショウ君はどこからきたのかなー?」 何だこの児童向け番組さながらの質問事項は・・・ まぁいい、答える。 「A地区の3です。ちなみは学校名も同じようなものです」 「はい!!」 言い終わるのと同時にその男とは対称の位置にいる女子が手を上げる。 その女子は髪が長く、見るからに活発そうに見える人であった。 「趣味は何ですか?」 まともと言えばまともだが、代わり映えがしない。 「趣味は読書、結構推理物とか呼んでいます」 無難な答えをしていく、なんと言うか、めんどくさいから・・・ ここで少し目立ったまねをしてしまうとあとあと困る状態になるであろうと予想したからだ。 その後も難なく質問に対する答えを次々と創造し、質問タイムを終了させた。 ホームルームも終わり、休み時間となった。 俺はこれから開始されるであろう『込み入った質問攻め』に頭を悩ますであろうことを予想していた。 ・・・3・・・2・・・1・・・ 「しょーーーーーーーーうーーーーーーーくーーーーーーん!!!」 いきなりあの調子のいい男が語りかけてくる。 ってかまとわりついてきた。 「って何するんだお前」 「ショウ君のためにこの学校を案内しようと思いまして!!」 意外と面倒見がいいのか?こいつ・・・ 見た目はヘラヘラとして落ち着きのカケラもない。 俗に言う自由人とはこいつのことを言うのであろう。誰も否定すまい。 すっかり俺の頭の中では関わりたくないNo.1にまで上り詰めていた茶髪が少しランクが上がった。 厄介なやつNo.1に昇格した。 「にゃっはっはっは!!オレに任せておけ!!」 俺は何も言っていない。 ましてや学校の案内はいらない。 「いざ!!」 俺は手首をつかまれ連れ去られそうになる。 「ちょっとお前」 「いいからオレに任せておけー!!」 連れ去られそうじゃなく連れ去られた。 その最中、質問を最初にしてきた女子も違う出入り口から出て行くのが見えた。 「ここがかの有名な・・・ワシントンクラブだ!!」 そう言いながら茶髪はトイレを紹介した。 ・・・WCって言いたいわけかこいつ。 しかもそこは女子トイレであり全く持ってオレには関係が無い。 「はぁ・・・ワシントンクラブねぇ・・・」 「学校の間中では人気よこの隠蔽工作を用いた決定的な言葉は!!」 言葉を間違えている・・・ 人気だったら隠すことができるわけ無いじゃないか・・・ 「じゃ、つぎー」 「ここがTRだ!!!」 ただの職員室だった・・・ 何と言いたいのだろうか、ティーチャーズルーム? 「ちなみにTRは『トレジャールーム』、発掘現場だぜ!!」 「なぜだ」 「面白いもの、没収されたものがわんさかと・・・」 わかった、こいつは面白いことが大好きなやつだ。 そして俺をその中に引きずり込もうとしているのだろうか・・・ 「ぐふふふふふ・・・」 ・・・ そして俺をその中に引きずり込もうとしているのだろう。 ってかいまどき「だぜ」使うのか? 「ここが・・・開かずの扉・・・理科準備室part2だぜ!!」 たぶんみんなは第二理科準備室と呼んでいるのだろう。 こういう言い方をするのはどこを探してもこいつだけのような気がする。 理科準備室からは薬品独特のにおいがしてくる。 「ここの水の勢いは殺傷力が抜群だから気をつけるべし!!」 ・・・ 理科室の水道はビーカーなどを洗うときに全てを綺麗に流すため、薬品をついたままにしないためアレだけ強いのだ。 殺傷力が高いとか言っているがそれほどでもないだろう。 「この力を利用して・・・そうだ!!洗い物なんてするとちょうどいいのでは!!」 実際そのためのものだ。 「オレってあったまいー!!」 いろいろと本当に意味の無いところに連れまわされている途中、携帯が動いた。 何かとメール内容を見てみると・・・ 件名:やっほーおっひさー!! 内容:ひさしぶりー元気してた?コッチに来るなんて思っても見なかったぞニャ!!よかったら今日の放課後部室等に来い♪ いい部活紹介させてあげるから!!こないとあのことをばらしちゃうぞ♪ とか・・・ ・・・知り合い、友達で転校をした人はいない・・・ ましてや、転校という話が出たのは自分の入ったクラスでは俺の回が始めてでもあった。 ってかなんだこの文面!? ふざけるにもほどがあるんではないだろうか!! 「めちゃくちゃ怪しい・・・」 「だろー!!あの先生ぜったいヅラだぜ!!」 俺は茶髪の言う事を完全に無視して、話題を振った。 「この学校の中で一番機器に詳しい生徒って誰だかわかるか?」 「ん〜・・・飛鳥クンわかりません!!」 聞いたのが間違いだったかもしれない・・・ それはともかくとして・・・思えば名前を聞いてなかった。 「そういえばお前の名前は?」 何にせよ、いろんな意味もないところに引っ張りまわしてくれやがりましたコヤツのご尊名を拝聴せねば腹の虫が収まりませんことだ。 つまり、泣く泣くって感じでもある。 「えーっと、オレの名前は・・・瀬戸飛鳥(せと あすか)!!飛鳥ちゃんってよ」 「呼ばない、飛鳥、とりあえず礼を言っておこう。質問攻めに合わなかったのは事実だ」 「いやぁ、なんのなんの!!」 得意げになっているこいつは胸をそってものすごく威張っている感じがした。 なんとなく・・・ってか本気で気があわなそうだ。 「じゃあ次の授業もあることだし帰るか」 「そうさ!!恐れないで生きる喜び!!たとえ!!」 飛鳥は俺の後をかなり昔の児童向け番組の主題歌を歌いながらついてきた・・・ 俺がなぜ知っているかは秘密だ・・・ とりあえず放課後だ。 何がとりあえずかってことはこの際どうでもいいことであり、実際小説とかを読む人がだらだらと日常生活さながらの リアルタイムで、文章を書き取ったとかそういうことを読み込んでいくといったらどんなにいらいらするであろうか。 とか考えたりしたこともある。 ようは、飽きさせない文章が大事である。 ううむ・・・小説書きってのは少し難しいのかもな・・・ と、推理小説とかを読みながら考えたことがある。 ということで放課後待ち合わせの場所・・・ つっても来なくてもよかったのだがやることも何もないので暇つぶし程度にやってきた。 「やぁやぁー!!メール読んでくれたんだねー!!」 メガネをかけた笑い顔の男が突然、とある部室から飛び出してきた。 あのメールを送った張本人か・・・ 「そりゃぁ・・・あんなタイトルのメールが届いた時にゃあ、みんな見るだろう」 「っふっふっふ、これぞ昔からよく使う勧誘メール術!!」 嫌な術だ。 そいつは身長は高校生の平均辺りだろうか、しかし、顔は少しだけ幼く見えたりもする。 メガネの奥から強烈なプレッシャーを感じることもなく、ただのニヤケ顔がずっと続いている。 しかしそれは苛立ちを募らせる笑いではなく、自然と出るもののようだった。 「何で俺を呼んだんだ?」 「まぁまぁ、積もる話もあるようなので部室の中へでもー」 さっき飛び出してきた部室の扉を開けどうぞ中へ・・・と言ったような手つきで俺に微笑みかける。 というかこの微笑が消えたことが一瞬もない。 いきなり入った後に部室の扉にそいつは張り付いてなにかをしている・・・
・・・金属音が部室内に響く・・・ ・・・物理的な鍵をかけられていた・・・ 逃げられない? 「それじゃあー単刀直入に言おう!!」 重たい口調・・・真剣さが顔に出る・・・ しかし微笑み顔。 「探偵部に〜入って♪」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・は?」 「探偵部に入ってくれよーぅ」 駄々をこねだした。 「君の観察眼の良さ、情報認識力、推理力は驚嘆に値するものだ!!」 「そりゃどうも」 たぶんだがこれは推理小説が好きとかそういうことだけで言ってるんじゃなかろうか・・・ はっきり言って、推理小説を読んでいるとしても、トリックやら何やらが面白いから読んでいるということもあり、実際に 事件の謎を解決するのは中の主人公であることが多い。 「だから〜入ってくれないかな?」 「・・・入らなかったら?」 「あのことをばらします♪」 ・・・前の学校でやったアレか? 「前の学校では〜・・・ほほーう!!」 なんかの資料を見ながらメガネを光らせる。 そんな技術どこにあるんだ・・・ 「いや・・・やめてくれ、思い出したくない」 ほんとにやめてくれ、ちょっと反省してたりするんだ・・・ 「じゃあ〜入る?」 「・・・」 脅迫だ・・・脅迫以外のなにものでもない・・・ ってかこいつが携帯のアドレスを調べたってのか? こんなプライバシー保護が繁栄している時代に・・・ 「僕の情報網を甘く見ちゃぁいけないねぇ・・・」 ・・・こいつは・・・ 「僕の友達の多さを呪うがいい!!」 そっちかよ!! 「前まで通ってた学校くらいには友達の輪は広がっていますよー」 「そうか・・・」 もうどうでもいい・・・身の安全のほうが最優先だ。 「わかった・・・でも条件がある」 「わぉ!翔君ふとっぱらぁ!!」 この学校ってハイテンションなやつ多いのか? 「でっで?条件ってのは何でございましょうか?」 「え、えっと・・・好きな時間に帰らせてもらえれば・・・探偵部なんだし・・・」 「ぜんぜんOK!!大丈夫!!僕たちもそれだし!!」 いいのかよ・・・ 「じゃ、コレにサインして!!」 用意周到であることこの上ない・・・ 名前欄以外全部埋めてある・・・ 全部予想通りとか言うんじゃ・・・
「よっしゃー!!!これで部員は六人目だー!!部費ゲットー!!」 自分に正直な人だ。 なんかもう、清々しいくらいに・・・ 「で、何する部活なんだ?ここの探偵部ってのは・・・」 入るからにはその内容を教えてもらわなければやっていられない。 この部活が学校にとってプラスなのかもわからないが・・・ 「困っている人を依頼料をもらって助ける探偵部!!ってのが表で、裏は日々の生活を面白おかしく暇無く過ごせたらいいと思っている集団♪」 ああーつまり、 「依頼料なんてほんとは要らない学校の救世主の軍団さー!!」 暇つぶしサークル・・・ 「で、その部長がこの僕、天才的頭脳と潜在的カリスマ性を備え持った伊藤真昼(いとう まひる)だー!!」 「・・・・・」 なんかついていっていいのかとてつもなく不安を覚える人だ・・・ さっきの飛鳥といい勝負でもある。 「ってことでよろしくね!!」 真昼は右手を差し出した。 顔を見ると本当にうれしそうにしている。 巻き込まれたコッチのことなど微塵も考えていないような笑顔で・・・ ・・・まぁ、暇つぶしにはなるよな。 俺はその右手に自分の右手を重ねた。 かくして俺は、探偵部となってしまったのであった。 「僕はね・・・最終的に知りたいんだよ。この世界が何で作られたのかをね」 真昼は不意にそんなことを言う。 言いながらも笑っている顔は崩れない。 それは探偵部の部長としての最大の問題であるのだろうか、それとも誰かの依頼で・・・ 外はもう、かすかにオレンジ色に染まっていた。 「こんな偽りの空を何で見ていなきゃいけないんだろうってね」 天井に映し出された夕闇が迫るグラフィックを見ながら答える。 「俺たちは守られてるんだろうか、束縛されているんだろうか。それもわからないからな」 俺は視線を探偵部部室に戻し、足元の鉄板を見ながら言う。 「こんな鉄の固まりに囲まれた世界で、俺たちは何をしているんだろうな」 深い深い海の底に埋もれているこの世界・・・ そんな世界で、俺たちは生きていた・・・ 俺たちは太陽を知らない者達だった・・・ 小説トップへ
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