探偵部の日常 「おおーい!!しょーうくぅーん♪」
真昼(まひる)が奇妙な声を上げながら迫ってくる。
俺はそれをよけようとした。
だがここは廊下で、横に飛んで逃げることなどできない。
結局よけられなかった。
真昼はオレの腹部に頭から猛スピードで激突した。
そしてオレは吹っ飛ばされる・・・
「いやーごめん!!実は探偵部にこーんな手紙が!!ってあれ?おーい橘(たちばな)くーん?」
オレの前方5m先にいる真昼が叫んでいる。
「・・・わざとだろ」
「で!!これなんだけど!!」
ずいっと前に出されるノート。
無視ですか、オレの発言。
「これは?」
「僕宛のメール。依頼状ダー!!」
ずいぶん久しぶりに来たなぁ・・・
やりたくないけど。
(親愛なる探偵部さんへ)
めちゃくちゃ怪しいんだが・・・
「親愛なるだってさ!!僕たちの努力の賜物だね!!」
・・・・まぁいいけど
(私は蜂蜜を食べたことありません。一度でもいいからハチミツをパンに塗って食べてみたいのです)
これ探偵部宛じゃないよな、普通・・・
「ハチミツはこの地区じゃあ貴重品だしね!!」
この地区じゃなくても貴重品だぞ・・・
(なので探してください。)
「・・・簡潔すぎる!!」
「目的がわかりやすい!!」
真昼はもうやる気十分パワー全開って感じだ。
「といっても、食べ物や調味料といったらオレたちは介入できない部類だぞ。なんといってもここはレッドの中だし」
「それだから素人君はー♪」
真昼はオレの手からノートをとってネットに接続した。
「くらっっっっっきーーーーーんg」
「いやいやいや!!大声で叫ぶな!!そんな大それたコトを!!」
同学年の人たちがオレたちのほうへ目を向ける。
「なんだよー翔(しょう)ーこういうのは気合が大事なんだぞー」
「探偵部は人に知られずひっそりと活動するのがおもしろいって前言ってたじゃんか!それ破ってどうする!!」
「時と場合によr」
「よらない!!どうしても叫びたいんだったら部室だ!!」
「・・・・・」
どうしても叫びたいらしく、部室に行くことになった。
部室にはみんなが集まっていた。
「あ、橘くんやっほー」
真夏(まなつ)が堂々とソファーの上を独り占めしていた。
「はいはい、ちょっとあけてくださいねー」
オレは真夏に横へつめろとジェスチャーをする。
「?」
寝そべったまま、ん?といった感じで俺を見る。
いや、気づけよ・・・
「ちょっと頭をどけてくれるとありがたいんですが・・・真夏さん?」
「んー・・・めんどい」
・・・・
「ここにかの有名な暴れん坊しょ」
「はい!!橘くん!!お茶?コーヒー?それとも紅茶がいい?」
真夏は急に立ち上がり飲み物の支度を始めた。
やっぱり真夏には時代劇の何かで釣るのが一番だ。
こんなときのためにデータを取っておいたのがよかった。
「はい!!なにもいわなかったから全部ブレンド!!」
・・・・・・
なんだろう目の前にある液体は・・・
くろい・・・黒いのだけど水っぽい。
コーヒーのにおいが紅茶のにおいとハーモニー。
ココアものもとも入ってるよ♪
レモーネードも忘れずにね!!
といった感じの液体・・・
なぜあんな少ない時間で用意できたんだ・・・
「おいーっす。あ!コーヒー!いただきまーす!!」
いきなり探偵部にはいってきた飛鳥(あすか)はコーヒー(?)を一気に飲み干した。
「・・・・・(ごっくん)」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あっそれは橘くんに出す予定だった」
飛鳥はガクガク震えだした。
そしてその震えが止まった・・・
三分ほどの時間が流れただろうか・・・
「ほあちゃあ!」
いきなり暴れだした。
「しっしずまれ!!飛鳥!!」
「あばばばばば!!!」
「いつもどおり元気だなぁ」
真昼は部長の席でくつろぎながら光景を見ている。
なんかなぁ・・・
「ふぉーーーーー!!!」
飛鳥は探偵部部室を飛び出していった。
「ふう・・・これで落ち着いた。」
「・・・・・・・・」
「うむむむむ・・・」
奥の会議室(真昼が勝手に作った)ではさっきから勇希(ゆうき)と五郎(ごろう)が何かをしている。
「ううー降参です・・・」
勇希は力なく机の上にとっぷした。
「これで3勝0敗」
五郎は机の上の何かを片付けている。
「何やってたんだ?」
オレは気になって聞いてみた。
「橘さーん・・・五郎さんが強すぎなんですよー将棋!!」
五郎が・・・
確かに何でもできそうな雰囲気をしてるけど、将棋までできるとは・・・
「うう・・・これまで一度も勝てたことがないんですよー!!」
いまこの時期に将棋をするって言うのはすごいな。
ブームになるとは思えないけども・・・
「で、今回は何をするんですか?」
「それは真昼しだい。オレたちは真昼には逆らえない・・・」
「ある意味そうですね・・・」
「まぁしょうがないけど・・・あんな性格だし」
オレはため息をつきながら言う。
真昼に逆らえるのは真夏くらいだ・・・
五郎は相手にもしていないだけだが・・・
「はい!!データ送信しましたー自分のノート見てね!」
オレはノートを開いてみる・・・
ノートの隅にあるメールボックスの中を見てみると一つとてつもない容量のデータ添付メールがあった。
「これをどうしろと・・・」
「よめ♪」
「いやだ」
「ひどい!!ひどいわ!!翔くん!!私が一生懸命調べた蜂蜜の資料をすぐに捨ててしまうのね!!」
「一言言うようだが真昼、いまどきそんなこと言う人はいない。ましてやお前は男だ」
本日何度目かのため息をまたつく。
「そしてそれはお前が10分足らずで調べたやつだろう・・・ついさっき」
「あちゃ、ばれた?」
「で、どうするの?これから探しに行くの?」
真夏は真昼に言う。
まぁ、真昼の性格からして・・・
「やらいでか!!」
・・・・・・・・・・だろうな・・・
「依頼主はハチミツをパンに塗って食べたいと言うだけだ!!」
だから依頼がおかしいって。
「だからまず!!食堂のおじちゃんに聞いてみるのが『ヴェストアイディーア!!』」
だろうな。
「もしくは先輩の喫茶店へ行けば・・・」
「はいはい・・・もう行こう部長さん」
「久しぶりに探偵部の活動だねー。まー頑張ってねー」
真夏、来る気ゼロ。
「じゃあ基地は任せた!!僕たちは先人切手特攻してくる!!」
「・・・・・・・・・」
あ、五郎、来るんだ。
「私も行きます」
勇希も来た。
「ほいほーい、いってらっしゃーい」
真夏、来る気ゼロ。
飛鳥、気配なし。
「なんか食堂って無駄に広い気がしませんか?」
「ま、許容量が多いに越したことはないと思うが・・・」
「全校生徒の半数分は確保しているらしい・・・・」
「そうなんですかー・・・ふーむ」
「おじちゃーん、焼きそばパンください」
「・・・・違うぞ真昼」
真昼は食堂の売れ残りパンを買っていた。
放課後になると菓子パンの類は半額とかそこらの値段になる。
まぁ思いっきり部活動してる人をターゲットにしているのだが・・・
真昼の手の中にはもう四つの焼きそばパンが・・・
「在庫一斉処分です」
「いや、運動部の人困るから」
「僕のカードもすっからかん」
「だったらやめろよ・・・」
「すいません、ハチミツってどこで手に入るか知ってますか?」
勇希が聞く。
こんなとき頼りになるな・・・
食堂のおじさんはダイコンの皮をカツラムキしていた・・・
いや・・・なぜに?
昼は過ぎたと言うのに・・・
「何か言いましたかー?」
おじさんはにこやかに反応しこちらを向く。
だが手に持ったダイコンを剥きながらと言う神業だ。
やっぱりおじちゃん、女の人に見える・・・
「あのー、ハチミツを」
「ああーちょっとまってねー」
ダイコンを剥きながら厨房の奥へと消えていく・・・
「はいこれ」
・・・・・・・ハチミツでてきた。
「「なんで!?」」
俺たちはみんな声をそろえて言った。
「・・・・・・・」
五郎だけ驚いていない。
さすがだ・・・
「資料の23ページに書いてあった・・・」
真昼はびっくりした表情を向ける。
「うそ!!?」
・・・いや真昼が言うのはおかしいぞ。
ってか五郎、いつ資料を見たんだ?
ここまで来るのにそんなに時間は無かったはずだ。
・・・まぁいいか、五郎だし。
資料23ページを見てみると、確かに書いてあった。
食堂のおじちゃんの名前が・・・・
養蜂場を経営しているとか・・・
何気に金持ちですか?この人。
「え・・・いただいてもよろしいんですか?」
「よろしいですよー。食堂のあまりもノですけどねー」
「これだけあれば十分ですー!!」
勇希はハチミツのビンを丁寧に両手で持ってお辞儀をした。
ビンの中には黄金色の液体が入っていた。
リアルに見るのはこれが初めてだ。
こういうものを作るのは農業の区域なんだろうか・・・
「これで終わっていいのか・・・いくらリクエストだからって・・・」
五郎が何かいっている。まぁいつものことだ、気にはしない。
「さてー、存外時間が残ったということでこれからその人のところにもっていくとしますか」
真昼もなんかすぐに終わってしまって不完全燃焼といったような感じ。
やる気がない・・・
まぁ早く終わればバイトの時間を心配しなくっていいからいいんだが・・・
「そのひとはどこのクラスの人なんですか?」
「ええっと・・・・・・・・・・」
真昼はノートを取り出す。
ページを開き、メールを見る。
2-5-D
「二の五のDか・・・部活まではわからないよな・・・」
「・・・・・」
真昼は少しにやっと笑った。
「こんなにハチミツがあるんだし・・・指にひとすくいくらいなめても・・・」
・・・
すまないがオレもその衝動を抑えていた。
今まで食べたことのない味がするんだろう。
話に聞くと味は甘いらしいんだが・・・
「だっだめですよぉー!!それは依頼品なんですからー」
と、勇希は言っているがその目はハチミツから離れない。
勇希も食べたことないのか・・・
勇希についてはまだわかってないことが多いからな・・・
外にもなかったのか・・・
「・・・・・」
五郎までもが欲しいと・・・
「じゃあちょっと・・・・・あ、!!ありがとうございましたー!!」
食堂のおじちゃんにお礼を言った後、早々に俺たちは引き上げ、探偵部に帰っていく。
「すぅぅぅ〜〜〜〜〜〜」
探偵部部室に帰ると真夏がまたソファーで眠っていた。
「まっなつちゃーーん!!ハチミツげっとっすよ!!」
真昼は真夏の前にハチミツを掲げ、大声を上げる。
「うう・・ん・・・ちょうだい」
眠りから覚めての一発目の発言がこれだった。
なんというか・・・大物だなぁ・・・
「さぁ緊張の一瞬でス!!このふたを開けるとこのハチミツの封印が解けるのでス!!緊張しますネー!!わくわくしますネー!!」
真昼はこれまでしたことないような顔をしながらビンをぶんぶん振り回している。
「どっどきどきします!!」
「・・・・・・・」
「早くたべたーい!!」
みんなが見守る中、真昼はハチミツのビンのふたを取った。
部屋に広がるほのかな甘い香り。
ねっとりとするようなまとわりつく香り。
不思議なにおいだ・・・
「みんな!!おちつけ!!落ち着け!!」
昔の人にとってはこの光景を見れば俺たちを笑うだろう。
しかし、俺たちは今生きている。
このときに希望を持ちながら!!
「スプーン一杯だ!!OK?」
「「OK!!」」
「じゃあ・・・かかれーーーー!!!!」
俺たちの光景はまるでエサに群がるハイエナ、もしくは飢えた肉食動物のようなもの。
普段食べられないものを目の前にすると人間はこうなるんだろうか。
不思議だ・・・
みんな平等だというのになぜこうも競争をするのだろうか。
そしてオレは一杯のハチミツをすくう。
「あっずるい!!橘くんスプーン山盛りみたいな!!」
「これは技術だ。断じてずるではない」
スプーンを平行にして最大量を持っていけるように最大限、細心の注意を払い持ち上げるという技術。
何必死になってるんだ・・・と未来のオレは突っ込むのだろうが気にはしない。
未知への遭遇はなにものへも変えがたい好奇心&意地汚さが生まれるのだ!!
「あま〜〜い!」
「おいし〜〜〜〜い」
「・・・あまい・・・」
「おお〜これがハチミツの味かー・・・想像よりもおいしー!!」
オレもなめてみる。
口に入れた途端に鼻にくるハチミツ特有のにおい。
舌にのせたときに感じる甘さ。
想像を絶していた・・・
この世にこんな食べ物・・・のみもの?えっと塗るもの?調味料?まぁいいや・・・があるとは!!
「みんなー・・・・まだハチミツはいっぱい残ってるんだけど・・・もうちょっとだけ・・・ほんのスプーン一杯だけ食べたいと思わないかな」
「ふっふっふ・・・真昼もわるよのー♪」
「かっかっか・・・いやいや真夏さまにまかないますまい・・・」
何この兄妹・・・
でもその意見に反対できない俺がいる・・・
「じゃあみんな・・・もう一杯・・・」
結局、ハチミツはパンに一枚だけぬれるほどの量しか残らなかった。
でも歯止めがきかせられて良かった。
依頼はパンに塗って食べたい!!みたいなものだったし。
俺たちがくつろいでいると、廊下のほうから何かが走り迫ってくる音がした。
「水水水ーーー!!何か口なおしーーー!!!」
・・・この声は・・・
ガラッと入り口が開いてその声の主が入ってくる。
飛鳥だ!!
そして飛鳥の目は光り一点に止まる。
その視線をたどると・・・ハチミツのビン!!
飛鳥にはこれは遠目で飲み物のように見えたのだろう。
「いただきまーーーーす!!!」
俺たちが止めるよりも早く飛鳥はハチミツのビンに手を伸ばし・・・
それを一気に飲み干した!!
「ん〜〜・・・なんか飲み物じゃなかったみたいだけど変な味は消えたっぽい〜、おちついた〜」
飛鳥は俺たちの前で口をパクパクとしている。
みんなは愕然としている。
そしてみんな同時に右手を握り締める。
「「ん〜の〜」」
「ん?なに?みんな?」
「「あほ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」
そしていっせいに飛鳥にハチミツのときのようにかかっていく。
そりゃーもう。ハイエナのごとく。
探偵部の部室の隅に一人制裁を受けたものが横たわっている。
「も・・・燃え尽きたぜ」
飛鳥は燃え尽きたらしい。
その後、依頼主にはいっぱいハチミツの入っ(てい)たビンをわたした。
喜んでくれたのはいいけども・・・
そして依頼料としてのものももらうことになったけども・・・
申し訳ないから断った。
依頼もあんまりなくて・・・
まぁ普通の日でも、この部活でいると暇をしないからいい。 小説トップへ