BATON
二年近くが過ぎ、私はある大会の会場にいった。


もちろん観客として。
あの子、黒崎さんの音が生で聞ける・・・
そのことで昨日の夜は眠れないほど興奮していた。

私が恋した音・・・あの音を早く聞きたい・・・


しばらくすると、黒崎さんの出番が来た。
私にはそれまでの演奏は期待していたのだけれどやっぱり一番の期待はこの黒崎さんの演奏だ。


黒崎さんはスッとフルートに口を当てる・・・

・・・私はまた不思議な感覚に陥った・・・
とても・・・とても楽しい気分になる音・・・
綺麗で・・・繊細で・・・穏やかで・・・暖かい・・・

今ならわかる・・・
この音は音楽なんだ・・・
人を楽しませてくれる音楽なんだ・・・


私はこの音を出したい・・・
人を楽しませる音を・・・
音楽を奏でたい・・・


黒崎さんの演奏が終わるとしばらく、沈黙が流れた・・・
そして・・・
「ブラボー!!」
という声とともに盛大な拍手が送られる。
私も惜しみない拍手を黒崎さんに送る・・・

私には見えた・・・これからの道・・・
音楽を学ぶ道。

人に笑われようが関係ない。
私は音楽を奏でるんだ・・・

私はこの手で音楽を・・・作り出したい!!


その日から私は、前よりもフルートにのめりこんでいった。
私の音で・・・絶対・・・
みんなを楽しませるような音楽を・・・




数年後、私はある程度有名な音大に入った。



私は少し大人になった。
私は自分でこの学校を決め、自分でできる限りやってみようと思った。
みんなが楽しくなるような・・・
でもそれにはただひとつ問題が・・・


「履修手続きの紙をどこに出していいのかわかりませんー・・・」
独り言を言うまでに落ち込んでいる私・・・

ああ・・・このままじゃ・・・夢半ばであきらめることに・・・

・・・流石にないか・・・それは・・・
うーん・・・掲示板にも地図が張ってない・・・
かれこれ十分くらいはここら辺でうろうろとしている私。
うーん・・・

・・・こっちを向いてる人発見。
「すいません」
いきなり声をかけた。
「なんでしょう?」

・・・なぜか丁寧口調・・・あ、この人、男か・・・
すいません、身長から女の人かと思いました・・・
・・・私よりは大きいけど・・・

「あのっ新入生なんですが、事務所ってどこですか?」
わたしは教えてくださいお願いします。といった感じで頭を下げる。
うーんと考え込む男の人。
「わかりにくいけど・・・いい?」
「はい!ありがとうございます!」


私の大学生活はここから始まったのだった・・・



BATONへ続く


(カンナさんからのリクエストによるものです) 
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