BATON


〜友情〜


僕は学校へ行く。
いつもどうり、フルートを持ちながら。





「ササ、今日はカレーおごってやるぞ」
「ほんと!?」
「ああ、昨日付き合わせちゃったからな」
長瀬君も珍しいことを言う・・・
でもカレーだ・・・
何を言われてもついていく。



「ササ、昨日はありがとな・・・」
「長瀬君、昨日から変だけど何かあったの?」
「いや、何も無い。気にスンナ!」
長瀬君は笑顔で言う。
なんだかわからないけれど、長瀬君はいい顔をしている。
困りごとが一つ減ったというような・・・

「ところで何か用なの?昼ごはんおごるなんて」
「ほんの気持ちだ!食っとけ!」
長瀬君はほんとにいい顔している。
なんかこっちも笑いたくなるような・・・
って・・・顔がにやけてるのがわかる・・・


「お前いい加減その笑顔やめろよなー、なんか、無理して笑ってる用にしか見えないんだよー」
「えーそんなことないよー」
「まっ、お前がそういうんならいいだろうがな」
??
意味がわからない・・・
まぁ、長瀬君の言うことの半分はわからないことだからスルーしとこう。


「あ、笹原さんこんにちわ」
長瀬君との会話の途中、嵯峨野さんがやってきた。
友人と思える人もいる。

「ねー、この人たち誰?」
っと当然の言葉を発する。
「この人は笹原さん、私の恩人、この人がいなきゃ私はこの学校にはいなかったんだー」
なんか事実を誇張しているような言い方だ・・・

「そんなこと無いよ・・・僕はタダ・・・」


「この人小さくない?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・だっだめっじゃないそんなっこといっちゃ・・・!!・・・」

嵯峨野さん・・・必死に笑いに耐えているのがわかります・・・

「いいよ・・・事実だし・・・」
「いいんだよ。事実なんだから」
君の言うことじゃない長瀬君。

「それでこの人は誰?」
「知らない人・・・」
といいながら僕たちの隣の席に座ろうとする。
僕はリュックを置いている席を空ける。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「どうもー♪」


慣れてる・・・


「嵯峨野さん・・・この子は?」
「あ、私と同じ回生の小津真理(おづまり)さんです」
「よろしくー先輩、マリって呼んでくださいね」
「よろしく、小津さん」
「聞いてました?」
「よろしく!!オヅマリ!!」
「続けて読まないでください!!」


長瀬君はここぞとばかりに話を切り出す。
手に持っているのは『来たれアメフト部!!青春の汗をエンジョイしよう!!』とか全く意味不明なことを書いてあるプリントだ・・・
サークル勧誘・・・
まだやってたんだ・・・


「そこのお二人さん?ちょっといい話があるのですが」
「なになに?」
小津さんは長瀬君の話に耳を傾ける。

「いま、アメフトのマネージャーになると」
「ああ〜パスです先輩、他当たってください」

長瀬君は5秒足らずで撃沈した。

うつむく長瀬君・・・
僕は彼の背中をポンポンとたたいてあげた・・・

「そうだ、笹原さん、この町の近くで高校生のフルートの大会があるのは知ってますか?」

嵯峨野さんは僕に話しかける。
僕はそのフルートの大会を知っていた。
僕も出場したことがある大会だったから・・・

「うん、知ってるよ・・・よく・・・」
「今回の大会に聞きに行きませんか?チケット二つあるんですけど
フルートやってる子がみんな用事があるって行かないんですよー」
「私もバイトでいけないんだー」

僕も用事が無かったらいきたいところだ・・・だけど・・・

「ごめん・・・その日は僕も用事があるんだ・・・とっても大事な・・・」

その日はこのフルートを受け継いだ日でもあるから・・・

「そうですかー残念です・・・あ、そこの体の大きい人はどうですか?」

「長瀬君は違う楽器なんだよ。いつも一緒にいるのはなぜかわからない」

「俺、『パパからもらったクラリネット』ふいてます。君はどう?アメフトのマネージャーに」
「すいません、勘弁してください」
嵯峨野さん・・・その断り方傷つくよ・・・

「どうですか?フルートの大会なんですけど」
「アメフトに入ってくれるなら♪」
「お断りします」
長瀬君・・・頼み方というものがあるんだよ・・・


「と言うのは冗談でー、行きたいところだけどなー・・・悪いね!その日は先約があるから」
「長瀬君、行きたいんだったらいってもいいのに・・・」

僕は長瀬君と約束を朝していた。
その日、僕の代わりに一日だけ家庭教師の代理をしてもらうことがその話の内容だ。

「いいって・・・お前と俺の仲だろー?細かいことは気にスンナ!?」
「うわー・・・男の友情だ・・・」
小津さんは何か怪訝な顔をする。

「おう!!俺とササは親友だぜぃ」
長瀬君は何事も動じない・・・といったように反論・・・いや、肯定する。

そのあと、4人での昼食は盛り上がった・・・




次の日


僕はみんなに言った。
「今日一日僕は用事があってでかけますのでー、家庭教師はもうある人に頼んでありますから心配しないでいいですよ」
「・・・裕之さんもしかしてそれは・・・」
アケミちゃんは言う。
アケミちゃんだけには話したから分かるよな・・・

「うん、帰ってくるとしても夜中なのでよろしくお願いします」
僕は頭を下げる。
翔子さんは、
「わかりました。気をつけて行って来てくださいね」
という。
その時、
「待ってください!!私も連れて行ってください」
とアケミちゃんは言う。
「・・・つまらないよ」
僕はあまり勧めたくはなかった。
「行かせてください・・・お願いします」
アケミちゃんは頭を下げてお願いしてくる・・・

なぜだか翔子さんも頷いて許してくれた。


今日は例年通り、音楽のコンクールがあるようで、電車の中は混み合っている。
僕はその中でフルートをかばうように持つ。

このフルートは一番大事なものだから。





目的の駅へと降りるとコンクールの参加者の人が次々に降りてくる。
その中で、
「あっ!!」
と声を掛けてくる女の子がいる。

「あのっ!!笹原さんですよね!?」
「うん、そうだけど・・・」
「やっぱり!三年前の大会!笹原さんの音よかったですー!どうやったらあんな音出せるんですか?」
とズイズイとせまる尊敬のまなざし、

「うっ・・・えっと・・・音を音楽にすること・・・だね」
僕は混乱して意味がわからないことを言う・・・
いや、初めての人がわからないというかなんと言うか・・・
あれ、そう、具体案。

「うーん具体的には?」
・・・・・・・・・説明できない。
しかたない、ケイでも困ってる人は放っては置けないだろう。

遅れたことは後で謝るか・・・
ベンチにフルートのケースをおきセッティングする。
そして僕は少し調子を合わせ、短い曲を演奏する。



いつの間にか周りには人だかりができていた。


そしてまき上がる拍手。
僕は少し恥ずかしくなった。
「やっぱり・・・笹原さんはいいですね。自分の音をみつけてる・・・三年前よりずっときれいに」
と女の子は言う。

三年前、僕はこのコンクールに出て、銀賞を取った。
フルートをはじめてからすこしの年しか経っていないけど、練習し続けた結果その賞が取れた。

それはもう、死に物狂いの練習だった。
高校の生活中でそのコンクールの賞を取らなければならなかったから。



僕はやり切った。
勉強も忘れ、ただフルートを吹くだけ。



僕らは大会を見るためではなく、あの人のいるところにきた。
ちょうど五年前のできごと。
僕の喜びの大半を奪ったあのできごと。



「その音は・・・黒崎さん?・・・・」
ふと後ろを振り返るとそこには嵯峨野さんが・・・

「あ・・・嵯峨野さん・・・」
なんとなく気まずいような気まずくないような・・・

「あ・・・笹原さん・・・」
嵯峨野さんは驚いたような顔で僕の顔を見る。

「あ、嵯峨野さんもいるー!!」
群がるフルート奏者たち・・・
いや、コンクールに出るほとんどの人が群がった。


僕たちは触ったらご利益があるとか言われてべたべた触られた・・・
ああ・・・僕の、大学試験前もそうだったな・・・
大学決まった人に触りまくって運をもらう・・・

なんだかそれは決まりごとのようで、触ることにより安心できた・・・
・・・・・・って、僕の友達がいってた・・・
僕が一番最初に受かった人だったし・・・


嵐が去って僕たちはベンチに倒れこんだ・・・

「ええと・・・裕之・・・さん?誰ですか?このかたは・・・」
嵯峨野さんは僕の隣に座って、ぐったりしていた。

「僕の後輩の嵯峨野美夕さん。フルート奏者なんだってー」
僕が知っていることのみを話す・・・

「笹原さん・・・この方は?」
嵯峨野さんからも聞かれる。
だけどぐったりとしている・・・大丈夫かな?

「僕のはとこ、小林アケミちゃん。パーカッションだっけ?」


「へー」
「ふーん」
・・・・・・・・なんだろうこの空気・・・・・・・


「笹原さんたち、これから何をしにいくんですか?」
嵯峨野さんは聞いてくる・・・
昨日食堂で言ったことが気になっているんだろうか・・・
まぁこんなところにいるから聞きたくもなるかな・・・
一緒の場所だし・・・

「ちょっとね・・・」
少し言いにくい・・・

「もしかして・・・デー」
「そそそそそっそんなんじゃありませんよ!!」
アケミちゃんは全力で否定する。
「うんそんなのじゃないんだー。えっと・・・大切な人に会いにいくんだ」
僕は付け加えて言う。
アケミちゃんは少し悲しそうな顔をした・・・
何か思いつめた顔・・・

「えーそれは会いたいですねー・・・紹介してくれますか?」

僕は悩む・・・
このまま話してもいいのか・・・
話せば嵯峨野さんもアケミちゃんと同じように・・・

嵯峨野さんは真剣な表情になる・・・そして
「・・・わかっています・・・黒崎さんでしょう・・・」
的をいる言葉を発した・・・

「あなたのフルートを聴いてわかりました・・・あなたは黒崎さんの・・・」
「うん・・・ケイは僕の師匠でもあり大切な人だ・・・」

心のそこから・・・

「じゃあ、私もついていきましょう・・・私の師匠でもありますから・・・あの方は・・・」
嵯峨野さんはベンチから立ち上がりながら言う。

「え・・・でも今日のチケットは・・・」
「もちろん♪ダフやをします」





この人何気にすごいこと言ったよ!?

「大丈夫です!!定価で売ります!!」
「いや・・・嵯峨野さんそういう問題じゃあ・・・っていない!?」





10分後


「さあ行きましょう。笹原さん、小林さん」
嵯峨野さんは僕らのほうをむいて言う・・・

まさか二枚の券を10分で売りさばいてしまうとは・・・

侮りがたし・・・




結局三人で行くこととなった・・・




しかし一人できてたってことははじめからダフ
「笹原さん?早く行きましょう」
「・・・はい・・・」
余計な散策はしないでおこう・・・







僕らはある墓地に着いた。
バケツに水を汲み、ひしゃくを持っていく。

ケイのお母さんはもう先に着いていた。
僕らは軽く会釈をして先輩の前に立ち、手を合わせる。

アケミちゃんも嵯峨野さんも同じことをする。


僕は見たから覚えている。
この中にケイが小さく、白くなった姿で入っている。
それはもう形だけ・・・
魂や心といったものとは無縁の存在。
かつてケイの一部だったものがはいっているだけ。


僕はフルートを取り出す。
そしてケイを前にして吹く。




曲はもちろん希望の曲。
あの人の曲。






二人は黒崎母についていく。
あの子達、二人にさせてあげて・・・と言うからだ・・・



「すいませんね・・・あのこのために・・・」
「いえ、わたしも一度きたかったんです・・・あの黒崎さんのお参りに」
嵯峨野は言う。

今まで自分がフルートをやってきたのはこの黒崎さんのおかげ・・・
自分がフルートに出会えたのは黒崎さんのおかげだから・・・

「私も・・・来たかったんです・・・」
アケミは言う。

笹原さんのあの話を聞いて・・・黒崎さんがどんな人なのかを・・・



「あの子は・・・ずっと笹原さんのことを話していました・・・最初は高校から帰ったら、
面白い人が入ってきた・・・とか言って笑ってたんですよ・・・最初は全く興味も無かったらしいのですが、
日にちがたつにつれ、子分になった。とか、うまくなってきた。とか、単純でいいやつ。とか・・・
裕之君の話題は多くなってきました・・・・・・そんな子が・・・・・」

そこで黒崎母は息をつく・・・

「・・・・・・・・・・裕之君も一緒なんでしょうね・・・・・・・・・過去も・・・今も・・・
あのこのことを思っている・・・一心に・・・・・・・・・・それは親としてはうれしい、感謝の
言葉をかけたいほどうれしいことだけど・・・・・・それが裕之君の幸せなのか・・・それがあの
この幸せなのか・・・望んでいることなのか・・・」







「私は思うんですよ・・・それはあの子達にしかわからない物だって・・・でも、間違いなく、
裕之君はあの子の死を悔やみ、嘆き、悲しんでいて、それにばかりとりつかれているような感じに
なっているんだと思うんです・・・・・・これからの人生・・・彼は何を思って生きていくのか
それが気になって仕方が無いんです・・・」


黒崎母は暗いトーンの声で話す・・・
嵯峨野も雰囲気で内容をつかみ、言葉が無い状態である・・・
アケミは、どれだけ二人の間の絆があったのかを改めて考えさせられた・・・





僕はフルートをしまう・・・
今までで一番の出来だったと思う。
「どう?上達したでしょー?まだまだケイには敵わないけど、ケイに言われた五年、頑張ってみたよ。
少しでも君の音楽に近づけてたらいいな・・・・」






どれくらいたったのだろうか・・・
あたりはすっかりと夕方になっていた・・・
朝からいたんだよね・・・僕は・・・


「じゃ、来年も来るから・・・絶対に上達して・・・」

僕は右手をケイの上に置く・・・

たぶん、ケイは楽しみに待ってる・・・いや、せいぜい上達して来い!!
とか思ってるんだろうな・・・
そう考えると、もっと頑張ろうという気になってくる・・・
ケイの言葉はいつも僕を動かす原動力のようなものになっていた・・・


後ろを振り返ると、三人が待っていた・・・

「ごめん・・・こんなに待たせてしまって・・・」

すると嵯峨野さんは
「いいえ・・・笹原さん、もういいんですか?」
とやさしく聞いてくれる・・・

「うん・・・アケミちゃんもごめんね?」

アケミちゃんは
「さっきまで、黒崎さんから話しを聞いていましたので・・・昼食、先にいただきました・・・」

「いや・・・もう、晩御飯に近いけどね、はははっ・・・黒崎さんもすいません。こんな時間まで・・・」

黒崎さんは
「いいえ、ケイちゃんも喜んでいると思います・・・裕之君・・・こんな時間までありがとう・・・」
深々とお辞儀をする・・・

「いえいえ・・・現状報告とか、一年間の話とかしていただけですし・・・僕が話したかったからです。
おかげでよくケイと話せました・・・」 一方的に僕が話してただけだけどね。 僕が言った言葉に、ケイのお母さんは少しくらい顔をする。 でも、前を向き直ったらいつもの顔で、 「では・・・来年もお願いしますね・・・裕之君も自分と向き合ってね・・・
あなたの幸せは誰にも邪魔できない、自分だけのものなんだから・・・」 と微笑みながら言う。 僕は深くお辞儀をしてその場を離れる・・・ 駅前に着くと、あたりはすっかり暗くなっていた。 「このまま家に帰ったら遅くなるな・・・どこか食べに行こう?・・・どこがいい?おごるからどこでも・・・」 と僕が言うと、 「いえいえ、無理してついていったんですから私が・・・」 と嵯峨野さんは言う。 「いえっ、私が最初からついてきて迷惑かけたので私が・・・」 と、アケミちゃんは言う・・・ 三者譲らず、その後討論が続いた・・・ 「わかった・・・じゃあ自分の分だけ払うと・・・」 「それじゃあ意味がありません!!」 「そうです!!裕之さんは払わなくていいんです!!」 と、僕は除外・・・ 暑い夏の日に・・・僕らは今何を外でやっているんだろうか・・・ しかも、自分が払うという言い合い・・・ 僕は二人の姿を見ながら流れていく雲を見ていた・・・ 僕は今・・・いろんな友達がいて・・・ ケイも見守ってくれていて・・・ 大好きなフルートもできる・・・ 僕は今・・・幸せなんだね・・・ 小説トップへ
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