BATON

〜家族〜

僕は希美と久しぶりに会った。
電車から降りてくる所、
「やっほー!お兄ちゃん元気ですかー?」
そういいながら僕のところに歩いてくる。
いつもの調子だ・・・
僕も手を上げて返事をする
「やっ、元気そうだねーよかったー」
僕はその調子に少し安心した。
でも、
「いやー普通じゃないよー」
「?」
「何かわかんないけどウチの中がさみしい感じになったと言うか何と言うか・・・」
希美は少しさみしそうな顔をした。
「ふーん、そうなんだ・・・やっぱりか・・・」
僕もちょっとさみしかったりするしね・・・

「うん・・・五穀米と言いながら四穀しか入っていないご飯のような・・・」



・・・・・・なんとなくわかる・・・
こういう他の人にはわからないたとえが通じるのが兄妹・・・
そんな感じがする・・・

「ああ・・・わかるわかる!!」
「うんうん、お兄ちゃんならわかってくれると思ったよ」
大げさなうなづきをする希美。
こんな姿すら少し懐かしいと思う・・・

「ところで、希美ってどれくらいここにいる予定なの?」
「ん?えーと、それは・・・」
3日間くらいだろうか・・・
大体それくらいだろうな・・・
残りの日数を考えると少しさみしくなる・・・
でも、その日数を知っていればどこに遊びに行くとかの計画とかも立てられるし・・・
「40泊41日・・・」
「・・・・・・ごめん・・・聞き間違えたのかな?・・・もう一回いってくれる?」
「40泊41日」
「もう一回」
「40泊41日だよ」
「・・・・・・・・・ながっ!!」
「ふふふーもうおばさんには了承済みなのだ!!」
そう言ってVサイン・・・

そうなると親たちは・・・
「え・・・お父さんたちは?」
「夫婦水入らずで旅行にいったよー」
「どこへ?」
「世界へ」

え・・・・・・
「・・・・・・・・・僕に相談無しですか・・・」

どうもウチの家系は自由奔放というかなんというか・・・

「パオは?」
僕は飼っている犬について聞いてみた。
「お隣りさんに」

・・・もはや完璧・・・

「だから希美は言ってみれば40泊41日以上しても良いんですよー♪」
「そう・・・」
「うれしくないのー?」
「うーん・・・両親と会えないって言うか・・・それがなんとなく」
「家族想いっすねぇ・・・」
そうなんだろうか・・・

「ま、希美がいてあげるからさみしかったら希美に泣きついてくればいいよ♪」
どっちが年上だって・・・
「・・・妹に泣きつくお兄ちゃんってどう思う・・・」
「うーん・・・嫌?・・・」
「でしょ」
「あはははは・・・でもお兄ちゃんなら大丈夫!!なんてったって」




・・・・・・・絶対言われる・・・・・・
はっきりとした声で・・・


「私とそう年齢変わらないように見えるもん!」


この妹は・・・

「ヘタしたら弟に見えるかも・・・」
「・・・それは僕のコンプレックスです・・・」
「ははははは!!まだ気にしてるんだー。可愛いなー」

妹に可愛いって言われた・・・



希美は僕の妹で今は高三の受験生。
顔は僕と結構似てたりする・・・
・・・って言っても希美が男の子っぽい顔をしているわけではなく・・・
・・・・これ以上は言いません・・・
身長も・・・一緒・・・


聞いたところによるとこの夏は塾は行かないで自分で勉強するとか・・・
どこの大学行くとかは聞いてないけど・・・


「そう言えばどこの大学にいくつもり?」
「そりゃお兄ちゃんの後ですよー」


・・・・・・・この話も聞いてない・・・・

「だから、お兄ちゃんに教わるのですよ・・・極意・・・」
「・・・・・・聞いてないよ」

「お母さんやお父さんに聞いても音楽の事はサッパリなんだもん。
 お兄ちゃんがウチの中で一番音楽の事に詳しいとしたら?」
「・・・その人に聞く事が一番」
まぁ・・・そうだけど・・・

「だから長期滞在オッケー!!食費も払いますー」

僕は少し不安を感じた・・・
もしかしたら・・・夏休みの後もずっといるーとか言い出すのではないかと・・・


「アケミちゃんだっけ?クラス一緒になった事無いからあった事無いけど同じ学校なんだよー」

可能性が広がった・・・





小林家に到着。

希美はベルをならす。(ぶー)

そうだ・・・ブザーだったんだ・・・
「うわっ・・・お兄ちゃん、ブザーだよ・・・」
「うん、お兄ちゃんも最初びっくりした。」

ガチャッと開くドア。
(がらがらがら)
と思ったんだよな・・・一番最初・・・

「ドアかと思った・・・」
・・・何故ことごとく同じなんだ・・・僕らは・・・

「いらっしゃい〜希美ちゃん♪」
顔を出す翔子さん。

そして家の中に案内される希美・・・

ぴかぴかに光った廊下を歩く僕ら・・・
(すたすたすた・・・)
・・・・そこで何故こけないんだ・・・

「どうかしましたか?裕之さん」
翔子さんは不思議そうな顔を僕にする。
「いえ・・・」
何故か僕は悔しい思いをした・・・



来たのが昼ちょうどと言う事で皆で昼ご飯、と言う事になった。
小林家が尚人さん以外全員そろう・・・
そしてみんなが驚く。

「えっ?裕之さんが二人!?」
アケミちゃん・・・すこーし傷ついた・・・

「笹原さんが二人!?」
サトシ君、その言葉あたってるけど心の中では違う考えだと思う。

「ぶんしんのじゅつだね!」
アカリちゃん・・・・・・・・・・



こう言われるのはなれているんだけどもやっぱりちょっと傷つく・・・
だから希美が来ると少しブルーに・・・


「はい〜、見分け方は髪の毛の長さです〜」


翔子さん・・・あってるけども・・・あってるけども!!

・・・見分けるのってそれだけ?

「希美でーす。これからよろしくお願いします!!」

元気よく挨拶・・・

「あと声もですよ〜」
付け足された・・・




希美はこの家の人達と今日一日で打ち解けたっぽくって良かった。
やっぱり僕と似ているのが少し関係しているのだろうか・・・


その夜、なんだかんだあったので家庭教師はお休みとなって・・・
久しぶりに僕は早くから寝る事にした・・・

何か疲れがたまってるっぽいし・・・




「おにいちゃーーーーん!!」
いきなり開け放たれる引き戸。
それにびっくりして眠気が吹き飛んだ・・・

「ど・・・どうしたんでしょうか?」
何故か敬語・・・
「自分の部屋にテレビ無いからお兄ちゃんの所で見せて!」
・・・まぁ深夜の番組は色々規制もなくって結構ブラックなバラエティ番組とかあるから楽しいけど。

「僕・・・ねたいんだけど・・・」
「寝てていいよー私はテレビ見てるー」

・・・もうテレビつけてるし・・・

まぁいいか・・・・・・

「もしうるさかったら私の部屋で寝ててー」
「そうするか・・・」

新しく出してもらった布団は干したあとなのでとってもいい匂いがしたりする。
それが結構好きだったりする・・・

「じゃ、お兄ちゃんは寝てくるので・・・見終わったら起こしてくださいな・・・
 交代で部屋に帰るので・・・」
「んー、わかったー」
すっごい生返事だ・・・
僕は一言そう言って希美の今日かりた部屋に入ってばたんとそのまま眠りについた・・・






「起きてー希美ちゃーん」
そんなアケミちゃんの声が聞こえる。
ゆさゆさゆさ・・・
でもゆすられてるのは僕自身・・・
何かおかしい・・・


・・・一瞬で僕は気付いた。

・・・・・・一晩中希美の部屋で寝てたのか・・・
しかも僕は希美と間違えられている。
希美は?

周りを見渡す・・・

アケミちゃんの背後に・・・いた・・・
しかも僕の服を着ている・・・

確信犯か・・・

「希美・・・なにしてるの・・・」
「いや、希美はそっちでしょ・・・」
あきれた・・・と言うポーズをとりながら顔は笑っている・・・
声色も使ってるし・・・

「??」
アケミちゃん・・・気づいてないし・・・

「・・・・もうやめようよ・・・希美・・・」
「いやいやいや・・・結構面白いですよ?希美さん?」
アッチはアッチで僕の事を希美とか呼んでくる。

「・・・・・・」
「・・・・・ぷ」

・・・笑った・・・

「もういいや・・・僕は服着てくるよ・・・」
「じゃあねーお兄ちゃん♪あーおもしろかった!」
「??」

まだ気づいていない人約一名いますね・・・





朝ご飯の時も希美は僕の服を着ていた・・・
・・・みんな混乱していた・・・

面白かったって・・・まだ楽しんでるじゃないか・・・

「いいかげん僕の服返してよー」
「何を言っているんだ。これは僕の服だ!!しかもそっちが僕の服だよ!!」
小林家の人達の頭の上には?マーク・・・
いや、正直僕も変な気分。


「ええと・・・」
アケミちゃんが支援をしてくれる・・・助かった・・・
「部屋にいたのはこっちの服の人だから・・・あなたが希美ちゃん?」
僕のほうを向いている・・・


ちゃん付けで呼ばれた・・・

・・・・・・疲れる・・・
朝の間にどれだけ疲れただろう・・・


まだ夏休みだから良かったな・・・



「あ、希美、後で一緒にお兄ちゃんの大学見学にいこっか?」
何を言っていますか妹さん・・・
そのセリフは僕のものだ・・・
「・・・・・・ああ・・・いいね・・・お兄ちゃん・・・」

この瞬間、僕は何かを捨てたような気持ちになった・・・






「はい、じゃあ行ってきます!!」
「いってらっしゃーい」
僕らは大学に行く事になった・・・
いや、大学に連行されたのか・・・

「あれ?自転車は?」
「僕のは1つしかないから無理かな」
「二人乗りとか」
「僕は体力ないしそれに使うほどではないよ」

希美は玄関前に自転車を置いた。
「よし」
「・・・」

希美は自転車の荷台にまたがった。

「GO!」
「・・・・・・わかったよ」
僕は渋々運転手となった・・・
しかしいきなりだな・・・昔はこんなことしたことなかったのに・・・

「早く行こう!!」
「はいはい・・・」
でも僕は何故か気分が良かった・・・
何でだろう・・・懐かしい事ではないけれども懐かしく感じる・・・
四月からのたった四ヶ月経っただけなのに・・・
その間にあんまり感じたことのない家族の喪失感を・・・
今、家族のいる今に感じている・・・
今、充実した気持ちがあることで感じている・・・


もしかしたら、これが家族なのかもしれない・・・
僕と希美はよく似ているから、希美もきっと今、感じているのだろう・・・
家族の大きさというものを・・・

「さぁ力の限りこぐのだ!!お兄ちゃん」
「はぁ・・・じゃ、気合入れて行ってみますかね。ちゃんと捕まっといてね」
「うん!!」
肩に乗せている手に力がこもる・・・
少し痛い・・・



家族の大切さを、離れてみてよくわかった。
一緒にいて少し面倒だったり、嫌だったり、恥かしかったりする事もあるけれど・・・
楽しく・・・嬉しく・・・愛らしい・・・
全てを一まとめにしたものが家族なんだ・・・


僕は夏の暑い日に大学までの道のりを二人乗りの自転車で駆け出した・・・

風を切るのには程遠い速度で・・・
のんびりと僕らは大学への道を進んでいった。

「がんばれー!!」
汗が落ちる・・・
「ひとごとだと思って・・・」
でも僕はいっそうに力を込めてこぐ・・・

まだ夏は始まったばかり・・・
今日、僕は今年の夏が来た事をはじめて感じた。

 
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