BATON

〜家族〜



大学につくやいなや、希美は自転車から飛び下り、キャンパス内を見渡して歩き回った。

人の気も知らないで・・・
どれだけカロリー消費したんだ今日だけで・・・
「あ、笹原先輩じゃないですかー」

声を掛けられた。
希美が。

やっぱり見分けられる人はあまりいないのか。

「希美、なんとなくお兄ちゃんと間違えられてショックな部分があるんですが・・・」
希美は自分の体を見ながらいう。
「きにするな、希美、それは僕も一緒だ」
二人は大きく溜め息をつく。


兄弟が似ているのはいいことによく取られるけども、実際僕らは身長や身体的特徴までよ
くにているからよく比較される。
「希美、牛乳飲む!そして大きく・・・」

「今さらって感じだよね・・・僕らは・・・」

また僕らは大きく溜め息をつく。
気になることは同じではないけど・・・同じようなものだ・・・

どちらかといえば僕のほうが絶望的だ。




「おっササじゃん。何やってんの?」
長瀬君が僕の後ろにいた。
・・・この人は本当に神出鬼没だ。
ササ、という言葉に反応して希美も後ろを向く。
何かを察知したのか希美は長瀬君を前に身構えた。
少し失礼じゃないか?
「お兄ちゃん・・・この人は・・・」
構えを崩さずに僕に問いかける。
何か感じたのか・・・妹よ・・・

「僕のトモダチ、長瀬君。下の名前は・・・あれ?知らない・・・」
「おまえ・・・それでもトモダチか?」
長瀬君はなんともいえない顔をする。
そして、長瀬君は
「弟?」
(バシ!!)



希美が殴る前に僕が一発頭をはたいた。
「なッ何するんだよ!!」
「禁句だよ・・・長瀬君・・・妹だよ妹」
僕は小声で言う。
「なぬ!?あの体系はどう見ても中学生の少年だぞ」
長瀬君は希美を見る。

なんていうか、希美がそんな風に言われたら僕もムカッと来る・・・
僕と希美は似ているから僕も中学生の少年体系と?・・・

・・・・・・・
(バシ!!)



もう一発長瀬君の頭をはたいた。
「いた!!」
「禁句!!」
「そんなこと!・・・いわれ・・て・・・わかりました・・・」

長瀬君を前に僕ら兄妹は睨みをきかせていた。




「それにしても似てるなー・・・分身の術とかそんな感じにも・・・」
長瀬君の頭の中はアカリちゃんと同じくらいなのか・・・
「注意してくださいね。今度から言葉遣いには・・・」
希美・・・聞こえてたんだ・・・
希美の右手はコブシを作りプルプルと震えていた。
笑顔なのが怖さを引き立てている。

「はい・・・」
長瀬君もたじたじ・・・

「ここに来たってことは後輩になる予定?」
「・・・・・・」
希美はもう長瀬君を敵対視しているようだ・・・
なんか・・・後が怖い・・・
「うん。学校見学に来たんだー」
沈黙に耐え切れずに僕が口を開く。
だめだ・・・希美にとって長瀬君は『合わない人』なんだろう・・・

「そうかー!!じゃあ来年アメフトに!!」
「・・・・・・・」
希美は長瀬君を上目加減に睨んでいる・・・

「・・・・・・・・わるい・・・わるかった・・・許してください・・・」
長瀬君たじたじ・・・


「じゃッじゃあ俺はこれで!!さようならー!!」

長瀬君は耐え切れずに去っていく・・・


相容れぬ存在・・・ではなく希美が一方的に一切受け付けない存在らしい。

「お兄ちゃん・・・」
「ん?なに?」
「あの人・・・希美は・・・」
「言わずともわかります・・・」


嫌いなんだな・・・






「とまぁこんなもので大学見学はこれくらいだねー。オープンキャンパスにも来たらいいよ」
「んー・・・まぁいいや。お兄ちゃんの説明でだいたいわかったから」
「いやーそういうことじゃなく中身を〜」
「音楽なんだから・・・だいたいはわかってるよ」
「うーん・・・ならいいや・・・」

希美はフルートだから僕と一緒だ。
だから大学の案内は楽だった。
一緒にいるとなんか不思議がられたりするけども・・・

「っていうかお兄ちゃんの服着たままだから男の人と間違えられるんだよ」
「お兄ちゃんと一緒にいるからだよ」
「・・・・・・」
何も言い返せません・・・


「おなかすいたー・・・ねぇ、食堂行かない?」
希美はおなかを押さえながら言う・・・
オーバーリアクション・・・
「・・・うーんもうそんな時間かー・・・よし、食堂に案内します!!今日はお兄ちゃんのおごりです!!」
「さすがお兄様!!太っ腹!!っていつもどおりじゃん」
「そうだね」
僕たちは笑いながら食堂へ向かっていった。





しばらく僕らは昔話とかしながら食事をしていた。

「ここの食堂のカレーは合格点だね」
「うん。さすがに専門店には負けるけども・・・」
この話ができるのは希美だけだ・・・

「あれっ?笹原さんじゃないですかー」
「あっ笹原さん」
その声に反応する僕ら二人。
そこには嵯峨野さんと早川君。

「あっ、希美さんも一緒でしたかー」
「えっ?笹原さんが二人ー・・・あ、妹さんですか」

・・・?いつもと違う反応・・・

「あれっ?早川君知り合い?」
「ええ、生徒会で一緒でしたよ。笹原さんの妹さんでしたかー」
「お兄ちゃん知らなかったっけ?生徒会はいってるの。吹奏楽でも一緒だったんだよー」

なんかいつもとは違う反応に希美はうれしいようだ・・・

「ところで・・・二人は?」
嵯峨野さんと早川君が一緒にいるところを見たことが無かったのでちょっとたずねてみた。
「ああ、演劇の音響におよばれしたんですよー。一年生の劇とか言うものでー」
「僕と一緒かーなるほどー・・・っていうか僕の知り合い多いなー・・・お手伝い・・・」
何か仕組まれている感もするのですが・・・
「何の話ですか?」
希美は僕らの言葉に疑問に感じたのかたずねてきた。
「ああ、大学祭の一年生の演劇で音響をしてくれる人を募っているんですよ。裕之さんもそのお手伝いさんです」
早川君は的確に答える。
さすが元生徒会長・・・

「へー早川さんもでるんですかー?久しぶりにその指揮見てみたいですー」
「もちろん。でも音響だから舞台裏ですよ。残念ながら」
「じゃあ私も舞台裏に入ってやりますよー」
いいのか?そんなこと・・・
「ちょうど一人分空きがあったので入ってくれるのは歓迎ですよ」
いいんだ・・・

「じゃあ希美も入りますー!!よろしくお願いしますー!!早川さんとお兄ちゃんのタッグの音が聞けるのが楽しみですー」
「「いやそんなたいしたものじゃ・・・」」
僕と早川君の声が見事に重なった・・・
どこかのネタだ・・・
「それに嵯峨野さん、フルートうまいよー」
「へーそれは楽しみですー!!」
「それほどでもないですよー」

「それに長瀬さんも・・・」
早川君の言葉に希美の体が固まった・・・
「・・・・・・大丈夫・・・お兄ちゃん・・・我慢できるから・・・」
必死だ・・・
そこまで嫌か?
長瀬君が・・・





僕らは食堂で別れて希美と一緒に小林家に帰ることにした。


「希美が吹奏楽に入った理由は知ってる?」
「いや・・・全然」
「もちろんお兄ちゃんのことも関係あるけども、希美が一年生のときの入学式に二年生の男の子が指揮をしてるのを見てなんかかっこいいなって
 思ったんだー。それで、フルートはお兄ちゃんから少し習ってるから入ってみようかなーと思ったの。」
僕は高校一年の時を思い出していた・・・
同じようなものだったのかもしれない・・・

「それだけ」
「・・・・・・それだけ!?」

ちょっと拍子抜けした・・・
「だってそのときはええっと・・・若気の至り?っていうかなんていうか・・・それ・・・」
・・・・
「なんとなくわかった・・・つまり早川君のかっこよさに・・・」
「ぎっ技術的にね!!いっいやそれは早川さんに失礼。顔も良かったし・・・って希美は何をいっているんだ!!」

僕は僕に似ている希美の行動に笑ってしまいそうだった。
僕もケイのフルートの音に惹かれて入ったようなものだし・・・

「大丈夫だよー。僕も一緒だから」
僕は笑いながら希美の頭に手をのせてポンポンとした。
「・・・むー・・・」
希美は少し不満そうな顔だ・・・

でも、
「よかった・・・」
「え?」
希美は僕の顔を見ながら言う。
「お兄ちゃんちょっとずつ治り始めてるね」
「??」
意味がわからなかった。
「その顔だよ。忘れないでね」
「かお?」
何なのかわからない・・・

「そう、ほんのちょっとだけどね・・・今、目を向けいるんだね・・・あのことへ・・・」
「・・・・うん」

なんとなくわかった。
けど・・・

「僕はまだ変わってないよ・・・僕はそんなに強くないよ」
「強いよ、お兄ちゃんは・・・過去も今も黒崎さんの意思を継ごうとしている・・・」
希美はまっすぐに僕を見て言う。
「ただの逃げだよ・・・」
「違うよ・・・お兄ちゃんは黒崎さんの音楽をみんなに伝えようと努力している・・・希美にはわかってる」
「・・・・・」



「僕は強くないんだ・・・ケイのことを思い出すといつも・・・」
「そんなこといいじゃん」
希美は笑顔を作る。
「泣くことは強いことではないけども、泣かないことも強いことじゃない・・・強いってことは目をそむけないこと、現実を受け入れること、
 私にはできないよ・・・」
困ったように笑いながら手を組んでうなづいている
「希美・・・」
僕はただ言葉が無かった・・・
「まぁ私に言えることじゃないかもしれないけどね・・・」
「・・・・希美・・・ありがとう・・・」
「・・・・・・お!?お兄ちゃん泣きついてきてくれてもいいよ!」
希美は思い出したように言う。
「誰がするか〜!!」
僕は笑いながら希美の頭を軽く小突いた。

「いったー」
「ま、これからも頑張っていくかな。うん!」
「おおーーその意気だー」
「もしそんなことがあったら僕のところに泣きついてきてくれてもいいよー」
「そんときはよろしく」
あれっ・・・

希美は笑いながら自転車の荷台に乗る。
「はやくー」
・・・帰りもこぐんだった・・・
これから二日分目の汗を流すのか・・・僕は・・・

「・・・・・・はいはい、希美さん鍵をはずすのでどいてくださいねー」
「あっそうだった・・・」




家に帰ると・・・

「うわー汗びっしょり・・・シャワー浴びて着替えてこよー」
希美は家に着くなり飛び降りて家の中に入っていく。
僕はその汗のゆうに十倍は掻いているんですが・・・


「「ただいまかえりましたー」」
はもった・・・
今日何回目だ・・・

「「おかえりなさーい」」

あっちは翔子さんとアケミちゃんがはもった。
・・・まぁどうでもいいことだけども・・・


そうだ。いろいろありすぎて聞くこと忘れてた・・・

「希美ー」
「んー?」
「僕の部屋に服を取りに行くな」
「ちっ・・・ばれたか・・・」
「そのかっこだったから・・・」
いや・・・言うことはよしておこう・・・
「大学どうだった?」
「うん!!おもしろかった!!よりいっそういきたくなりました!!」
「それはよかった」
「一人を除き・・・」
「・・・・」
生理的に受け付けないのか・・・

「まぁ絶対に行くから!!」
「そこまでいってくれれば案内してよかったとおもえるよ」
満足そうでよかった・・・

「うんそれじゃ!!」
「うんうん・・・で、僕の服は持っていかないでくださいね。もう間違われたくありません」
「ちっ・・・」
二回目の舌打ち・・・

そんなにだましたいのか・・・
いや、そんなに僕を陥れたいのか・・・







「さてっと・・・」
リビングでアカリちゃんや翔子さんと話をしていた僕は立ち上がった。

「あれ?もう時間なの?」
「うん、家庭教師の時間になりました」

サトシ君の授業は夕方早めに済ませ、アケミちゃんの授業を後でする、というのがいつものサイクルになっている。

アカリちゃんは少し残念そうな顔をする。
「うー・・・ねぇお母さん。アカリもカテイキョウシしてほしいー」
翔子さんは微笑みながら言う。
「カテイキョウシってね。お勉強を教えてくれる人のことなの。だからアカリちゃんがお勉強したいって言うなら考えてあげてもいいですよ〜」
明らかにアカリちゃんの顔がゆがむ。
「勉強・・・うー・・・」
というか僕の意見が全く無いのですが・・・
「やるっ!!アカリやります!!」

アカリちゃんは悩んだ末に一つの結論を出した。
「そう。偉いですね〜・・・お母さんうれしいですよ〜」
翔子さんは涙を拭くまねをする。

僕は何も・・・


翔子さんはくるりと顔をこちらに向け衝撃の走る言葉を発する。

「週二回くらいで月5000でどうでしょう?」


・・・・・・・家庭教師の相場としてはたぶん安いといわれるのであろう。
しかし僕はこの家に厄介になっている身・・・安い!!という言い訳はできるものではない。
とは言うものの、5000円という響きはとても僕の頭の中にこびりつく。
なぜだろう・・・
甘い香りを発している・・・5000円・・・



「わかりました。オッケーです。・・・でもお金はいいですよー。こっちだって厄介になっているんですし」
「そうですかー?ありがとうございますー」
翔子さんはそういってアカリちゃんに向き直る。
うん、今さっきお金の魔力に引きずられそうだったけども・・・これでいいんだよ・・・


「良かったねオッケーだって〜お兄ちゃん優しいね〜アケミちゃんやサトシちゃんの成績も上がったことですし、
 お小遣い5000円アップにして上げましょう」
翔子さんはアカリちゃんをなでながら言う・・・

僕は翔子さんには勝てないような気がする・・・一生・・・

「やったー!!じゃあじゃあ今から」
「だめですよ〜、いまからアケミちゃんと希美ちゃんの授業ですからね〜」
「うーん・・・そっか・・・じゃあまたね!!ヒロ!!」



うん・・・考えようによったら得したかも・・・
夏休み暇だし・・・
しかも自宅でできるってのがいいよね。



サトシ君には普通の数学とかそういうものを教えているんだけども、アケミちゃんや希美には特別なことを教えなければならない。
音楽についての知識、ある程度の外国語など・・・
まぁ外国語は本格的にはすることが難しいからなんともいえないけれども、音楽のことなら高校時代に調べまくった経験があるから大丈夫。

でもパーカッションについての知識はフルートよりも格段に少ないから、基礎を重点的に今は教えてる感じ。

今日から希美も一緒に教えるんだなー・・・
そんなの希美が小学校以来だ。





自分の部屋の引き戸を空けるともう二人は来て座っていた。


「それでお兄ちゃんってああいう性格でしょ?その捨て犬拾ってきちゃってさぁ」
「それがパオ?」
「そう!!その時は希美もグッジョブ!!ってなかんじでお兄ちゃんを尊敬したねー」

昔話をしているな・・・

「そのとき一番喜んでたのって希美じゃなかった?」
「あ、お兄ちゃん。勉強始める?」
「あ、先に来てました」
アケミちゃんと希美はもう仲良しって感じだ。
ちょっと安心。
「そうだねーじゃあはじめようか」

僕は勉強のための道具を卓袱台に並べた。

「それではご教授願います。裕之教授」
「それはオーバーだよ」
「じゃあますたーヒーロー!!」
「フォースを感じて・・・ってちがうよ!!」

僕らの授業の時間は楽しくも充実して進んでいった。

今年の夏は早く過ぎていきそうだ。



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