BATON
夢のためとか、希望とか。
そういう言葉は幻想だとか、現実を見てから言えとテレビの中では大人たちは言っている。
でも、子供が夢を見ちゃいけないなんて誰が決められるんだろう。
ずっと見てきたんだ・・・
その希望だけを胸に進んできた人を。




〜夢〜

僕は暇なときを過ごしている・・・
家には翔子さんと自分だけ。
今日も演劇の練習はなし。
ゆえにとっても暇なのである。

翔子さんに何かしてもらうのも悪いし。



それで僕は自転車を取り出した。

なんかいつもと同じパターンなのは気にしない。

寝転んで暇だなーという伸びを何回かしていると、携帯がなる。
充電器から携帯をとって誰からの電話か見てみると・・・

案の定、長瀬君からだった。

通話ボタンを押す。
「もしもーし」
「もすー、おおササか?」

そっちからかけてきてそれは無いだろう。
携帯にかけておいて。
「ササですが?」
僕は呆れながらも答えた。
「チョットさー暇で暇でしょうがないから話でも聞いてくれよー」
「何の話?」
そっけなく聞いてみる。
すると、
「電話じゃあちょっとなぁ・・・駅前のどっかで昼食べながらはどうだ?」


僕の目は光る。
「おごり!?」
あそこに有る店のカレーは絶品、だがけっこう値が張る。
だから自分ではどうしても手を出すことを拒んでしまう。
「何でそうなるんだよ。お前の分を何で俺が」
「この電話は現在をもって使われておりません。どうぞもう一度相手を確認なさってからおかけになってください」
僕は電源に手を伸ばす。
すると小さく声が聞こえる。
「だーーー!!もうわかった!!おごるから話を聞いてくれ!!暇でしょうがないんだよーー!!」

やった・・・今日は僕の勝ちだ。






「と、ここに呼んだのは他でもない。俺の恋愛相談」
僕はメニューを見てみる。
やはり、この店の一押し!!メニューの中にカレーが入っている。
やるな・・・店長。
「俺って顔もいいし、性格も穏便だし・・・一般から見るとカッコいい系ってやつじゃん?だから俺がもてないのはおかしいと思うんだよ」
何か言ってるなこの人は・・・自分でカッコいいとか言うのか?
「これはバイト先の話なんだけどな、俺、前から目をつけていたこがいてサー」
僕は適当に相槌を打ちながら料理が来るのを待っていた。
「そのこにね。恋愛相談ーみたいな感じでチョットはなしに付き合ってもらったわけなんだよー」
運ばれてきたカレーは隣の席の子供のものだった。少しがっかりした。
「そして俺からこういったわけだよ。『俺、好きなこがいるんだけどなかなか勇気が出ないんだよ。断られることが怖くて』って言ってみたわけ」
子供がおいしそうにカレーを食べている。なんかその顔を見ると僕も期待でどきどきしてくる。
「そしたらそのこが『長瀬君、結構カッコいいし、告白したら考えてくれるんじゃないかなぁ』だって」
僕はずっとそのこを見ていた。するとそのこは僕に気づいてにこっと笑ってくれた。
お母さん、息子さんはいい子に育ってますね。
「これってあれじゃない!?もしかしていけるんじゃん!?とか俺思ったわけ、そして俺が思い切ってそのこに言ったんだ」
ようやく厨房から出てくるカレー。
シェフのこだわりとでも言うのか、カレーは一杯一杯出てくることから丁寧に作られているのだろうと思う。
皿に乗ったライス・・・器に入ったルー。
「それで『わかった・・・じゃあ言うよ・・・俺、君のことが好きでふ!!』って・・・思いっきり噛んじまったよ。ははは・・・」
そして僕たちの前に来たカレー。
「そしたら彼女は俺に向かって笑顔でこう言ったさ『考えさせてください!』ってね・・・」
一口食べるとその絶妙なブレンドのスパイスにただただ感動するだけで、いい表現方法が思い浮かばなかった。
「ささ・・・ねぇ!!これってどー思う!?どーおもう!?」
僕はただ・・・感動だけで、口は自然と声を発していた。

「おいしいなぁ」
「・・・・・・・おいしいっておまえ・・・・・・・」


「まぁいいや、それでお前に協力をしてもらおうと」
「ふむふむ・・・相談する相手を間違えてるよ」
僕は基本的に女の人が苦手。
まだ面識のある人ならいいんだけど、初対面となると話しは別。
誰かのつてとか、そういうこと以外は知り合うことすら難しいほどだし。

「ふっふっふ。知っているのだよ!!君が知らずとも君の周りにはうつくし・・・」
僕はふと外を見る。
向かいにある公園の中ではいろいろな人がいる。
駅前だと言うのに木々は多く、放課後は小学生などの溜まり場みたいなことになっている。
野球をするにもサッカーをするにも申し分ない大きさだ。

「と言うことで協力要請したわけですよー」
長瀬君は腕を組みながら自分の言葉にうなづいている。

しまった、聞いてなかった。
まあ適当に、
「それは自分の気の持ちようだよ。長瀬君けっこう顔はいいんだから」
「顔はって・・・顔以外いいとこないのかよ」
「はっきりいって長瀬君は・・・性格が軽すぎるのだと」
「なるほど・・・」
「だから今からでも誠実さを磨いてみたり・・・」

とか一般論の好かれる基本的なことを適当に並べてみた。

「とりあえず、クラリネットの練習を一生懸命することだねーそれからだよ」
釘を刺しといた。

この人、演劇の時に初めて合わせた時にひどかった。
初見って感じがものすごいした・・・
『俺って初見がすっげー得意なんだぜ!!』
とかいってたのは単なる強がりだったってのがわかった。
うん、とにかくひどかったんだ。



「仮にも音楽が好きで音大はいったんだから」

「そうか!!俺たち音大だったんだ!!」
いきなり長瀬君は立ち上がる。
なんだ?
「音大と言うことは盲点だった!!音大と言うことを利用し合コンなどでウハウハ大作戦とかできるんジャマイカ!!」


・・・こわれた


「そうと決まれば!!俺のサークルのやつ誘って合コン計画だ!!」
・・・・・・僕の話し聞いてましたかねぇ・・・まぁ僕も真剣に聞いてなかったんだけど。
「お前も来いよ!!」
長瀬君は僕の目の前に手を差し伸べる。
長瀬君の会話内容から考えると合コンに僕を誘おうとしているっぽいね・・・

長瀬君はスッゴイいい顔している。



僕は笑ってその手をしたから包み込み・・・
「よろしく!!」
伝票を手に握りこませた。
そして僕はそのまま店を出て行く。



「げーーー!!!!???何だこのカレーの高さは!!」

僕の背後で一人の男の声がした。

ふ・・・後悔先に立たず。
僕を相談相手に選んだことを後悔するんだね・・・





携帯で時間を確認すると時間は2時くらい。
なぜ2時間近く話し込んでいたのか・・・長瀬君だけで・・・

まぁいいや・・・ちょっと暇だしそこの公園にでも行こう。




僕は公園を歩く。
今まで外からしか見たことがなかったからけっこう新鮮だったり・・・
けっこう大きいと思っていたんだけどそれは見当違いだった。
ものすごく大きかった。
見渡せる範囲すべてが緑で覆われていた。

なぜ駅前にこんな自然が・・・
サラリーマンとかが夜中にトレーニングするとかテレビで見たことあるけどここがそうなのかな?

深呼吸すると綺麗な空気が入ってくるような気がする。
緑が多いと気分が晴れやかになるのは野生に帰った感があるからだろうか?
うーむ・・・


いろんな人がいた。
走っている人、犬の散歩をしている人、ベンチで寝ている人、遊んでいる子供たち。
平和だな・・・
ふと、僕はある見知った後姿を見つけた。

「あ、サトシ君だ」
サトシ君は学生服姿で公園の中を歩いていた。
この時間だったらまだ中学校だったんじゃなかったっけかな?


・・・ああ、なんか昨日言ってたな・・・今日は短縮授業だったんだっけ。


サトシ君はずんずんと前に進んでいく。
なんとなく気になって後をついて行ってみることにした。



サトシ君は立ち止まった。
立ち止まったサトシ君の前には一人の女の子がキャンバスの前で座っていた。
女の子は真剣に絵を描いていてサトシ君に気づいていないっぽい。

そこでサトシ君が声をかけると、女の子はさっきまでの真剣な表情が急に子供のような笑顔になった。
「さとし〜〜!!」
とか10mくらい離れているこっちにまで聞こえてくる大きな声で
なんだかほほえましい。
その女の子は10代半ばくらいだろうか・・・
でもその女の人はサトシ君と話しているとき、とても子供っぽく見えた。
「これ!!これ!!」
女の子は今まで描いていた絵をサトシ君に見せた。
サトシ君はその絵を見てとても感心しているようだった。

・・・なんだか僕も見てみたい・・・

ま、ここで現れても別に偶然ってことでいいと思うし。
いっちゃおっと。


僕はサトシ君に声をかけた。

「やっほーサトシ君!!」
僕は声を大きくしてサトシ君に呼びかけた。
サトシ君はこっちを向いて驚く。
「さ、笹原さん!?」
そして女の人もこちらを向いた。
すると・・・
「・・・!!」
女の子はサトシ君の後ろに隠れてその服をきつく手で握った。
・・・何なんだろう・・・

「ちょっと暇をもてあましてまして・・・公園を散歩してたらサトシ君がいたんで声かけたんだけども」
女の子はサトシ君の体の横から顔を出してこちらを見ている。
「えっと・・・もしかして・・・お邪魔でしたか?」
と、どこにでも出てくるようなセリフを言ってみる。

「いや・・・別にそういうわけじゃないんですけども」
サトシ君はちょっとあわてている。
女の子は近づいていくと共にサトシ君の後ろに体を隠していく。
「ねぇ・・・」
さっきとは比べられないほど頼りない声。
「この人・・・だれ?」
女の子はサトシ君に尋ねる。
まぁ当然だろうけども・・・そこまで怯えるのかな・・・
「ええと、友達だよ、と・も・だ・ち!」
いや、正確にははとこなんだけども・・・
「トモダチ?」
「そう、トモダチ、このお兄さんは僕のとっても仲のいいトモダチなんだー」
・・・・
「ともだち・・・ともだち・・・」
女の子は繰り返す。
「あっ!!サトシとくーとおなじ!!」
「うん!そうそう」
くー?・・・

「じゃあくーとこの人はトモダチ?」
「うーんちょっと違うような気がするけど・・・そうかな?」
サトシ君は僕の顔を見る。
いや・・・こっち見られても・・・
「とっトモダチなんじゃないかな?」
僕は言う。
「トモダチ〜2つめ〜!」
女の子はサトシ君の服をつかみながら手を一つ僕の前に出す。
握手って意味かな?

「あ、よろしくお願いします」
深く恐縮して手を握る。

思ったとおり手についていた絵の具が僕にもついた。
こうなってるってことはサトシ君の学生服は凄いことになってるんだろうなぁ・・・

僕は目を絵にうつす。
そのとき、僕は衝撃が走った。
え、この絵を・・・こんな子が?
その絵は、とても十代の女の子が描いているとは思えないほど精巧で、画家がかいてるのかと思えるほど・・・
完成はしていないんだろうけれども、葉の一枚一枚なども鮮明に・・・


「すっすごい・・・」
僕は思わず声を上げてしまった。
サトシ君は少しさびしそうな顔をした。
そして・・・
「ちょっといいですか?笹原さん・・・くー。ちょっとまっててね」
「うん!」
女の子はまたキャンバスに向かう。



二人でベンチに腰掛ける。
腰掛けるとすぐにサトシ君は語りかけてくる。
「くーの絵は見ましたよね」
「うん・・・凄かった・・・画家さんが描いてるくらいにうまかった・・・」
「そうなんですよ・・・くーはもう、画家ですから」
え・・・
サトシ君は続ける。
「くーは絵を描くのが好きで小さいころから描いていたそうです。もう10年以上は描いているらしいんですからもう・・・」
僕はそれにしてもうますぎではないかと思った・・・
これはもう・・・

「笹原さんはサヴァン症候群って知ってますか?」
ふいにサトシ君からこんな言葉が出てきた。
「うん・・・すこしなら・・・」
数万年のカレンダーの日付が頭に入ってて年数と日にちを言えばその曜日が言い当てられるって人とか、
ある風景を記憶してあとで、ビルの位置、建物の数、電線のたるみ具合間で正確に思い出して描けるという人たち。
しかし、そういった人たちには・・・
「くー、彼女には知的障害があるんです・・・今さっきのやり取りでわかったでしょうけど・・・」
言語機能の欠損などそういうものが良く上げられる。
ある一方の方面においては天才的な才能を持っているのに対しての代償なのだろか。

「くーの描く絵が好きなんですよ・・・俺・・・」
サトシ君はベンチから立ち上がって言う。
「俺、くーの描いている絵を見るとなんだか、飾らない自然って言うか・・・なんていうか、
そのものの美しさが伝わって来るような気がするんです」 僕も見たのは一瞬だったけども、その言葉の意味はわかる。 女の子の絵には見たままの自然が描かれていた。 自分の色で飾ることもなく、自然そのものを描いていた。 「うん、わかる・・・でもなんでここにサトシ君が?」 僕ははじめに抱いていた疑問をぶつけてみた。 「俺・・・実は美術部なんですよ」 ・・・・・・ 「えー!!!サッカー部だと思ってた!!」 「まぁ・・・家族の人にはわからないようにやってますけどね。恥ずかしいから」 良くここまで隠せたな・・・ って、隠す必要がわからないけども・・・ま、年頃の男の子ってことかな? ・・・ちょっと感心した。 「公ではいってないんでこれは内緒にしておいてくださいよ?あくまで趣味はサッカーですからね。好きですけど」 「てっきりね・・・部活動はサッカーって言ってたから・・・ははははは・・・」 うん・・・騙された。 でも悪い気はしない。 「まだ高校は普通のところ行こうと思ってるんですよ。それから美術の勉強をして・・・いつかは・・・」 サトシ君は「あ、」と声を出して、 「しまった。くー待たせてる。一緒に行きましょう紹介してあげます」 「こんにちわ。くー、こんにちわ。」 「こんにちわーササです。よろしくね?」 「ササ、ササ、ササ・・・」 「くー?ササだよ?」 「ササ、よろしく〜」 また手を出してくる。 僕たちは握手した。 「くーはくーって、くーってよんで」 「ええと・・本名は?」 「さぁ?」 「サトシ、ササ、トモダチ!」 サトシ君とくーちゃんの関係はわからなかったけど、二人はとても仲がいいように見えた。 「ところでくーちゃんのほんとの名前は?」 「いや、俺も知らないんですけど・・・」 「おぅ、トモダチ〜」 帰り道、僕はサトシ君の隣を歩いて帰っていた。 「へー・・・じゃあ翔子さんにも秘密なんだ」 「はい、そうなんです。って言ってももう知っているような雰囲気ですけどね」 「ははははは・・・」 翔子さんには抜け目がない。 この前なんて家に帰った途端に。 『服のボタン直しましょうかー?』 と言ってきた。 服を見ても以上がなかったんだけど。 『一番上のボタンですよー』 普段つけていない一番上のボタンが取れかかっていた。 「笹原さん、くーを紹介しても驚きませんでしたね」 サトシ君はこんなことを言う。 「え?」 「普通の人なら、事前に知ってなかったとしたら驚きますよ」 「いやいや、僕正直驚いたよ?」 「いえ・・・普通の人よりは・・・」 「とってもやさしそうな子だったね」 「くーは純粋な子なんです。って言っても俺のほうが年下なんだけど・・・いい子なんですよ。まっすぐで」 「けっこう人見知りするほうなんですけどね。笹原さんとは仲良くできると思ったんじゃないですかね?」 「それは光栄。おなじ芸術家としてね」 「ジャンルは違いますけどね」 家に着いた。 玄関から自分の部屋に向かう途中、サトシ君は、 「また、公園にいってあげてくださいね。今度は隠れないでいてくれると思いますから」 と言った。 サトシ君のこと、今まであんまり知らなかったけども、ちゃんと自分の夢を持っていた。 僕はサトシ君くらいのころは夢を持っていたのかな? 覚えていないけど、僕は今、音楽の分野での希望を胸に抱いている。 今がみんな一番大事なんだよね・・・ サトシ君とくーちゃん、これからも仲良くやっていけたらいいな・・・ 小説トップへ
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