BATON 
「ウー頭いてーーー」
長瀬君に会って始めの言葉がそれだった。
何日お酒を続けて飲んでるんだろうか・・・
二日酔いが何日も続いている・・・今日で四日目くらいだろうか。

僕は本気で心配になってきた・・・
頭の状態は大丈夫なんだろうか・・・心配だ・・・

「長瀬君・・・あたま悪いの?頭大丈夫?」

「端から見ると誤解を招く言い方はやめろ!!」

叫んだらまた頭が痛くなって来たらしくこめかみを押さえる。




〜親友〜



アレからもう1週間くらいたっている。
その間一度も早川君には会いにいってはいなかった。
会いに行くことができなかった。
誰かに話すこともなくただ時間が過ぎていく。

話せないと言ったほうがいいのだろうか・・・
特に、希美には話せなかった。



希美には大事をとって何日か入院しているだけだと言った。
早川君はあの調子だったら少しでも体調がよくなったら出てくるのだろう。
そして何もなかったかのように振る舞い笑う。



何かに似ているような気がした。




なんだろうか・・・


そこで僕の背中に衝撃を感じた。
おもいっきり背中に・・・お茶がかかっていた。


「あっつううううううい!!!!」

上着を着ていたために全然上のほうは熱くはなかったんだけど感覚的に言ってしまう。

「・・・・あついいーーーーーー!!!!」

しかし上着を伝って上着とは違い一枚生地のジーンズにかかる。

だがそこで脱いだら大変なことになる!!
だから我慢をするほかないのである!!
だけど・・・涙が出る・・・男の子だが・・・


うう・・・冷めたらさめたで冷たくなるんだろうな・・・

「おお、すまんすまん」
かけたのは個人練習の先生だった。
「ハンカチを持っていないのでな、日光で乾かせはっはっはっは」

笑いながら去っていく。
先生は教師としては若い方で結構フランクだ。
だから・・・


「何も無しですかー!!!」
「あははははは!!」
長瀬君は笑う。
「いや、ここ笑うとこですか!?」



先生の言うとおり昼休みの間中日光で乾かした。
・・・午後の授業は生乾きで冷たい思いをした・・・




放課後・・・というのか?大学って。
そんなことを考えていると。
「よぅ!!ササー」

何か幻聴が聞こえる。
気のせいだろうか。
「ササくーーーん」
うん、気のせいだ。
「ヒロちゃん♪」
「何だ長瀬君かおつかれー」
僕は振り返って挨拶をする。
「いや、普通に反応されると逆にこっちが怪しい男だぞ・・・これは・・・」
「だったら言うなー!」
僕は手を上げ長瀬君に向かっていく。
「ふっふっふ、仮にもラグビーサークルにはいっている俺を相手にしようとはなぁ・・・よし!!こい!!」
長瀬君も臨戦態勢に入った。
そこで僕は体の大きさの利を使ってすばやく横に回りこみ、ひざの関節を横から軽く叩いた。

「ははははは!!ササの攻撃なんて・・・」

長瀬君の言葉が切れる。





「なにこれ!!足に力はいんないよ!?ササ!?お前何をした!?」
長瀬君は足を押さえながらうずくまる。
「戦いは力だけじゃないよ長瀬君・・・じゃあね」
僕は長瀬君へさよならを言って最後の一撃を頭に打ち込んだ・・・




「とまぁ冗談はこれくらいにしてと・・・」
長瀬君は頭についた一円玉を剥がしながら言う。
「・・・ねぇササ・・・お前一撃目・・・本気で痛かったんですけども」
まだ足をさすっている長瀬君。
「知識はいろいろなところで役に立つものですよ」
僕は指をピンと立てながらめがねを上げるまねをする。

「お前の性格って・・・そんなんだったか?」








「で、ここは何?」
足元には砂、目の前には水、しかもしょっぱい。
周りには人一人だって見当たらない。
「どこって・・・海だよ」
「何でここに来たのって意味なんですけどもー」



珍しく学校に長瀬君が車で来たと思ったらこんなところに連れ出された。
出席率かなんかがやばめかとか思ってた程度だったんですが・・・
ってか二日酔いって・・・



「お前・・・悩み持ってんだろ」

長瀬君はそういった。
意外だった。
普段、何も考えていなさそうで、何も考えていないような人が・・・

「心の中でめちゃくちゃひどいこと考えてないか?お前」
「いや、全然考えてないですよ」





「よくわかったね・・・」
「長いつきあいだもんなー、付き合いだしてから何年だっけ?」
「言葉がやばいよそれ、男同士だったらなおさら」
「で、何年だっけ?」
「そうだね・・・6年位かな?」
「そんなになるかーつっても中学生の時合せてだよな」
「大学になってばったりだもんねー・・・そういえば何で僕だって気づいたの?」
「だってお前変わってないし」
「・・・・・・」
「あ、顔と身長な?」
「わかってるよ!!」
「性格はちょっと暗くなってたけどな、すぐにわかった」
「長瀬君・・・高校でなんでそんなに身長が伸びたんだよー、吹奏楽だったんでしょ?ここに来たからには」
「兼部ってやつだ」
「ふーん・・・」
「ちなみにバスケ」
「ラグビーじゃなかったのね」
「まあな、ちょっと遅れた成長期ってやつ?まだ一年に一センチくらい伸びてるし」
「・・・・・」
「あからさまに敵対視するな、これはバスケとかラグビーやってたから出た結果だ」
「理由がどうでアレ身長は欲しいですよ!!」
「ふっふーん」
「なんかスッゴイムカッときました」
「まぁまぁ」
「で、何で海なの?」
「悩み事を吐かせるには海だろう」
「いや、サスペンス劇場の見すぎだと思うよ僕は」
「マジ効果抜群なんだって!!!アレ見てみたらみんなやりたくなるよ!!」
「ちなみに何を目的に見てるの・・・」
「危険なシーン」
「それって性格やばいんじゃ・・・」
「いや、お子様には危険なシーン」
「何見てるんだよってかサスペンスの見所はそこじゃないよ!!」
「犯人を追い詰めるシーンはカット、最後の自供だけで俺は満足だ」
「そこで崖だったら死ぬ確率があるわけなんですが・・・」
「ま、だいたいは死ぬかな」
「や・・・僕は死なないぞ・・・」
「そうか・・・」


そう言うと長瀬君は僕の目の前に立ち言った。

「お前の悩みの話なんだが・・・」

いきなり本題に入った。
自分勝手だなこの人。

「ズバリ言うと・・・」

長瀬君は結構抜けているようで鋭いところがある。
もしかするとこの一週間で僕の行動に変なところがあったのかもしれない。

「身長だろ!?」

・・・鋭いも鋭い・・・日本刀、もしくは縫い針のような鋭さで僕の心をブッ刺した。
的確すぎて声も出ない・・・


「あれ・・・?違ったか?」
「・・・・はぁ・・・」



「じゃあナンなんだよー検討もつかねー」
抜け目がないというか・・・全部節穴なんじゃないか?
とか失礼(?)なことを考えたりも・・・

「僕の悩みはその程度なんですか・・・」




僕は誰にも内緒だということで、親戚の子の事として早川君のことを伝えた。




「ふむ・・・早川はそんな状態なのか」

隠す必要がなかった・・・こういうことには抜け目がない。
はずしちゃいけないときははずさない、それが長瀬君だった。

「これは、俺の昔話なんだが・・・」


長瀬君は語りだす。








俺の親父はクラリネット奏者だった。
音楽の方面では、ある有名な楽団にも入っていて、結構稼いでいたんだ。
俺の小さいころ親父は家にいることは少なく、いろいろな土地を回っていた。
家には俺と母さんだけ・・・
お金に困ることはほとんどなかった。
だけど、親父は家にはいない。
小学校の学年を俺は進んでいく時に、俺は何度親父を見たんだろう。
たぶん、一年で十回も見れたらいいほうだったんだろう。
中学のころなんか式という式の日は必ずといっていいほど休みは取れなかった。
俺は中学校のころ、親父に叱られる事なく育ってきたからちょっと荒れていた。



「ってかお前は知ってるよな中学校のころの話」
「まぁね、でもそんな話聞いたこと無かった」
「いってねぇもん」
「・・・いや、これはこういうときに言わなきゃいけないセリフかと思っていったんだけども・・・まぁいいか」
「ん、じゃあ続けるぞ」



中学校の時お前と会って俺は変わった。
バスケ部にはいってストレスとかをそこで発散したんだ。


「ストレス・・・今じゃ考えられないね」
「そうだよなぁ・・・今、サイコーに面白いし!!」



親父のこと少しずつわかり始めてきたんだ。
何かに一生懸命になるってことがどれだけ面白いことなのか。
それが好きなものであるとなおさらだと言うことが。
それが家族のためにもなるといったらどれだけいいことであるのか。

夢が仕事って言う人はあまりいないけども、親父は夢が仕事でできてたんだって思った。
家族のことよりも、夢を叶え続けていることが好きなんだって思ってた。

それでも仕方ないなって思ってた。
何かに打ち込むことがどれほど有意義なのか気づき始めたころだったから・・・



「前置きなげぇよ・・・・」
「いや・・・自分で話しながら言わないでよ」
「俺話すの苦手なんだよ」
「嘘でしょ」
「・・・・なぜ即答するんだ友よ」



中学も終わりに差し掛かったとき、親父は家に久しぶりに帰ってきた。
今回は五日連続で休めるとかいってたな。
その時、俺は親父に話しをした。
今、夢中になってることとか、中学であったこととか・・・
ほとんどの言葉に、『そうか・・・』で返す親父はとてもうれしそうな顔をしていた。
家族にも口下手な親父だが、確かにその時、親父は俺の親父だった。

その時に、俺は気を利かせて、



「こほん・・・これ以上聞くにはジュース一本必要になります」
「そういうと思って買ってある」
「お、気が利くじゃん」
「はい、どうぞ」
「サンキューってつめたっ!!なんで冬にこんなものを!!」
「冬だから買って見ました」
「冷たいものを?」
「おしるこ」
「どこが!?」
「『おしるこCOLD』って言う新商品」
「あ・・・新商品ならば文句はない。サンキュな」




その時に、俺は気を利かせて、(あ、二回言った)




「あ、意外とうまいな、これ」
「まぁ、味は変わらないとか書いてあることは確かだね」




その時に、俺は気を利かせて、(三回目だよ・・・)
母さんと一緒にちょっとした旅行にでも行ってくればと言ったんだ。



「気が利いてるとおもわね?」
「・・・早く続きを聞かせてよ・・・」



母さんと親父は少し困ったような顔をしたが、次の瞬間、笑顔で『ありがとう』って言ってくれたんだ。
その旅行には、車で行った。
電車で行けばいいのに、と言ったけども、こっちのほうが落ち着けると言うことだった。
その旅行の時は観光したところとか、お土産は何がいい?とかいろいろな電話がかかってきた。
一日何回電話がかかってきただろう・・・
その電話の内容は全ては母さんからで、とても俺に感謝してると言う内容だった。
旅行最後の日に、一度だけ親父と電話で話をした。
たった一言だったけども俺は今でも覚えている。


『武、たくさんの思い出と感謝の気持ちをありがとう』


その旅行の帰りだ・・・親父たちが事故にあったのは・・・




親父と母さんは夜の道を親父が運転する中でも二人で仲良く話していたらしい。
そのため少し反応が遅かったんだろう、対向車にランプもつけていない車がいきなり現れてカーブで出会い頭に衝突した。
いつも、親父はクラリネットを持ち歩いていた。
その車の中でも例外ではなく、いつもだ。
母さんはとっさにクラリネットをかばっって腕でケースを包み込もうとした。
親父がいつも『これは俺の命のようなものなんだ。俺の命と同じくらい必要なものだ』と、
母さんは『これがなければご飯も食べれないから命とおんなじ様なものね』とふざけて言っていた。

親父はその時、クラリネットには目もくれず、母さんがクラリネットをかばう前に母さんに覆いかぶさったらしい。



母さんは気を失って気づいた時には血まみれだったらしい・・・
親父の血で・・・

母さんは気づいた、助手席に乗り出さなければ親父は助かっていて、クラリネットも庇えて無事だったと。
『どうして・・・』
と母さんが言ったとき、親父は言った。
『そんなの当たり前だ・・・命より大事なものなんて、この世には二つしかない・・・・・・武と・・・お前・・・・の・・二つ・・・
 今まで・・・夢を叶え続けられてよかった・・・お前が妻で、あいつが息子で・・・・・・・・・ありがとう・・・』



それが親父の最後の言葉だった。





「俺が言いたいことがわかったか?ササ」
「・・・・・・・」
「・・・・ササ?」
「ごっごめん・・・ううぅぅぅ!!」
「涙もろ!!」
長瀬君は笑っていた。



「俺が言いたいのは人の夢も自分の夢も人の命も自分の命も、その人でなければわからない、ある瞬間にしか他の人には見えない、それはアッチも同じこと
 コッチのことはわからないし、アッチのこともわからない、言葉に出すまでは・・・」

長瀬君は海を見ながら言う。

「だから、単純、話せばいい」





「長瀬君・・・・・」
「ん?・・・・」
「旅行に行かせたことを・・・それでクラリネットを・・・」
「それはないない大丈夫!!クラリネットだってどこが楽しいのかやってみたら止まらなくなってやり始めたことだしな!!」


なんか長瀬君が今までで一番かっこよく見えた。




「長瀬君・・・・・」
「ん?・・・・」
「車・・・駐禁貼られてる・・・」
「えっ!!まじっ!!」
「ほら!!今貼られてるところだからダッシュ!!単純、話せばいい!!」
「こんなところでその言葉を使うなーーー!!」



僕は・・・
僕はとてもいい親友を持っているな・・・
海を見ながらそう思った。

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