BATON 
「どうもー」
僕は病室に入る。
「さっささはらさん!?」
当然のように早川君は驚く。
うん、いい反応だ。
「ちょっ・・・ちょっと待ってください。な、何で来たんですか!?」
「前に言ったよねお見舞いにくるって、今日はそれ」
そういいながら僕は紙袋からお菓子をいっぱい取り出す。
「なんですかそれは」
「ルマンド」
「う・・・」
ほうほう・・・早川君はルマンドが好きと、



〜事実と結果〜



「そっそんなことより!!」
「いつくらいから学校に来るの?」
「え・・・一週間後くらいですが・・・」
「そっか、じゃあまた学校で会えるねー」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


「ほんとなんなんですか・・・あなたは」
早川君は今までのように戸惑ったようなそぶりもなくまじめに言う。
「僕は・・・僕は笹原裕之、君と同じ大学に通っている・・・君の友達だ」
そして僕はそれにまじめに返す。
「・・・よくそんなことを普通に言えますね」
そしてまた僕はまじめに返す。
「いや・・・言ってみて自分でも結構恥ずかしい」
「・・・・・・」


早川君は、はぁと息を吐く。
「まったく・・・僕の意見は無視ですか」
「うん」
「え・・・」
「君の言ったことは一方的だし、話してくれなきゃわからないもん。人の気持ちなんて」
「・・・まぁそうですけど・・・」
「君はもっと人を頼ったほうがいい。なんでも相談できる人、いるの?」
「ええと・・・」
「いないなら僕がなってあげよう」
「・・・・・・・」

「僕は君の友達だ。何があってもその事実は変わらない。何を知ってもそれは揺るがない」




沈黙・・・
しかし前のように空気が重いとは感じられなかった。
「・・・すいません・・・ごめんなさい・・・すいません・・・」
早川君は泣き出す。
子供のように・・・


そしてゆっくりと話し出す。
「僕は・・・あなたのことを・・・友達だと思いたかった・・・でも僕は体がこんなだから・・・いつかなくなってしまうのだから・・・
 それならば普通の付き合い程度で・・・友達と思ってはいけないと思っていました・・・・・・それはあなたが僕がいなくなったときに
 悲しまないように・・・ということもありましたけど、多くは僕のこの世の未練がないようにするためだったのだと思います」


「自分の身が可愛いんだと思います。僕は・・・」
「・・・違うよ」
僕ははっきりと言う。
「君は自分を守るためにとか言ってるけどちゃんと人の役に立っていることをしている。それは偽善じゃなく善だ。自分がどう思っていようが
 他人から見れば善だ。偽善は自分で思うものではなく人が勝手に思っているものだ。それに僕はいつか聞いたことがある・・・困っている人がいて
 も大勢の前でそこで見てみぬふりをして何もしないのと、人の評価を得るためにその人を助けること、どちらが立派かといえば後者だ。
 偽善は悪ではなく善だ。偽善を感じていない人でも人の『ありがとう』という言葉を聞いて喜んでいるのだから・・・助けたことによるその人の
 喜びを受け取って喜んでいるんだから・・・」

「笹原さん・・・」

「そして僕は今でも思うんだ。君がいなくなってしまうことは悲しいと、今、君と一緒にいられてうれしいと」



早川君は服の袖で涙を拭く。
「少し変なことを言いますけども・・・いいですか?」
「うん・・・」

すうっと大きく息を吸い込む早川君。


「僕と・・・・・・・・・友達になってください・・・・・・」
早川君は僕のことをまっすぐと見て手を差し出す。
僕はその手を両手で包む。

「ああ・・・もちろん」


「ああ・・・・・・・・ありがとうございます・・・」



この時僕らは本当の友達になった。






その後僕たちはいろんな話をした。
学校でのこと、家でのこと・・・本のこと、映画のこと・・・
そして笑いあった。
看護士の人から怒られたりしたけどそんなことでも笑った。


「あ、そうだ。聞いて欲しいことがあるんですよ。僕のことなんですが・・・やっぱり言っておかなくっちゃいけないなぁと思いまして」
「なに?早川君?」
「・・・ところで早川〜とか郁人〜とかなんで言い換えてるんですか?」
「ああこれ?ルナちゃんがいるときには郁人君、いないときには早川君と呼んでいるのです」
「そんなんだったらもう郁人でいいですよ。そっちのほうがわかりやすいですし」
「うんわかった」
「ええと・・・話が脱線してしまったんですが言いますね・・・って言うかなんか緊張するなぁ・・・やっぱり・・・」
「・・・・・・」
「うう・・・そう構えられるとよけいに言いにくいんですが・・・」



郁人君は一呼吸おく・・・そして口を開いた。


「僕はお医者さんの話ではあと、半年らしいんですよ。僕の体は・・・」


「そっか・・・」
僕は床を見る。
その床がぼやけてくる。
ああ、覚悟してたんだけどなぁ・・・わかってたんだけどなぁ・・・

「ほら、顔を上げてください・・・」

「うん、ごめん、ありがとう」









面会時間が終わってから外へ出たのもうで夕方だった。
秋ということもあり日の落ちる速度は速い。

家に帰る途中に誰かが出てきた。
それはサトシ君で、何か急いでる様子だった。
僕はなぜかサトシ君の表情を見てこう言った。
「がんばってねーーー!!」

それに気づいたのかサトシ君はコッチに親指を立てて合図してから走っていった。




「ただいま帰りましたー」
「あっおかえりなさいー」
アケミちゃんが迎えてくれた。
その表情はちょっと生き生きとしていた。
「何かあったの?」
「いやー・・・あのサトシ君がねー・・・」
アケミちゃんが何ともいえない表情をしている・・・
・・・・

「お兄ちゃんサトシ君に会った?」
希美まで玄関にやってきた。
「うん・・・すっごいスピードで走っていってたけど・・・」
「青春だねぇ・・・」
何を言っているんだ妹よ・・・

まぁ気にするようなことじゃないしいいか・・・

「それで・・・早川さん大丈夫だった?」
希美は神妙な面持ちで言う。
「うん。退院のめども立ってるらしいよ」
僕はできるだけ笑顔で、不安などないように答える。
「そう、よかったー」
希美は安心した顔で廊下を歩いていく。






希美に郁人君についてのことは話さなかった。
これは郁人君から言うことだと思ったから・・・
僕が口を出していいことではないだろう・・・
だけど・・・事実を知った時に希美はどう思うんだろうか・・・
まず悲しむんだろう・・・

そして郁人君のことをどう思うんだろう・・・





郁人君は何を思ったんだろうか。次の日、僕を電話で病院へと呼んだ。


「ごめんなさい。あの・・・ちょっと聞きたいことがありまして」
「うん、相談に乗れることなら何でも・・・」
「ええと・・・希美・・・さんのことなんですけども・・・」
「うんうん」
「いま、どうなんですか?様子というかなんというか・・・」

どう・・・というのはあのことであろう。
文化祭の日のこと。


「どうしたもこうしたも・・・リベンジだーとか言って闘志を燃やしていますが・・・」
「ああー、希美さんの性格ならそうだと・・・でも・・・こんな体だからなぁ」
郁人君はたぶん悩んでいるんだろう。
希美に知らせたほうがいいのか、よくないのか・・・
こればっかりは郁人君自身が決めなくちゃいけないことだと思った。
希美にしては後々、もっと早く知りたかったとかいいそうだが・・・

「うーん」
「郁人君が決めないとだからね。こればっかりは」
「はい・・・」
「ところで、病気とかそんなの抜きで希美のことどう思ってるの?」
「へ?」

郁人君は変な声を上げる。
「いや、その・・・ええと・・・明るくていい人ですし、回りにもよく気を使っている可愛い人だと・・・」
「ふむふむ」
実のところ自分でも希美のいいところなんか明るいくらいしかわからない。
もし仮に僕が郁人君の立場だったとして希美に告白されたとすると・・・



・・・・

「ごめんなさい」
「えっ?なんですか」
「えっ、いやコッチの話」
僕は手をぶんぶん振りながら答える。
とてもじゃないけど僕には無理だ・・・

「純粋にだったら、僕は希美さんのこと好きですよ・・・高校のころから・・・」
「・・・物好きだね」
「え?」
「いや、なんでも・・・」
兄妹だからそうなのだ・・・うん・・・きっと・・・


さらっといったけど結構爆弾発言だよね・・・これって・・・



「いや、高校のころの憧れって言うんでしょうか。吹奏楽部のときに一人元気な声でみんなと一緒になって笑ってましたからね。僕にはそんなこと
 できなかったから・・・みんなと笑いあうなんて僕にはできなかったから・・・」

この二人は・・・



希美に昔聞いた話を思い出した。
吹奏楽部にいつもみんなのために頑張っている指揮者がいると。
その人は生徒会長もやっていて、自分のことより他人のことを考えて学校で一番がんばっているカッコいい人だと。
希美もあの人のようにみんなのために頑張れる人になりたいと・・・



二人とも、憧れというものをお互いに感じていたのだ・・・



郁人君がもしもこんな体ではなかったとしたら・・・二人は自然と・・・


「・・・やっぱり話しておいたほうがいいですよね。そして、あきらめてもらいたいと思います。僕としては・・・」
「郁人君・・・」
「それが希美さんのためです。それが一番いいんです・・・」
郁人君は窓の外を見る。
空は心の中とは裏腹に晴れ渡っていて雲ひとつもなかった。


お互いが通じ合っているのに通わない。



「でも・・・僕も、けじめを見せないといけませんね・・・僕も隠してきたんだから・・・」
郁人君は目を閉じる。
何を思っているのか・・・わからなかった。

「隠し通してきたんだから・・・僕も少しの罰を受けましょう・・・」



わからなかった。




最後に・・・希美をこの週末に病院に連れてくるという約束をした。







次の日・・・

僕は大学内にいる。
いつもの習慣であり、授業と授業の合間に練習室の一室をかり、フルートを吹いていた。
そして、練習を済ませた後、希望を吹いてみた・・・

何度も何度も吹いた曲・・・
いつもいつも吹いていた曲・・・
だけども、なぜかその音はいつもとは違っていた用に感じた。
練習の時に使うフルートはケイの物ではなく、自分のものでするようにしている。
それが原因ということでもないと思う。

いつもよりも、音がやさしくなったように聞こえた。



ふと・・・僕は思った。
曲を作ってみようと・・・

あらゆる楽奏が頭の中を駆け巡っていく。
どれもなぜか明るい。

僕は長瀬君に前言われたことを思い出した。
『ササのオリジナルは全部暗い曲調だよなー』

と・・・
・・・・・・

思いっきり明るい曲を作ってしまえ。
そして長瀬君とかいろんな人を驚かせてやろうじゃないか。


やっていると楽しくて時間を忘れてしまう。
そんな感覚があった。
やめられない止まらない・・・みたいなかんじで進んでいく。
今までこうも楽しく作曲をしたことがあっただろうか?
なぜか今は楽しくてしょうがなかった。

ふと時計を見る。

「あ・・・・・・」

作曲に時間を費やしすぎて時間は五時・・・
僕は大学に入って初めて授業をさぼってしまった。


「・・・ま、いっか」

でも僕の心の中は晴れ晴れとしていた。
とりあえず作ったところは五線譜に全部落とし、また次の日続きを作ることにした。





二日もサボるということはできないので、次の日からはちょくちょくと作曲していくことにした。

この曲が完成するがいつかはわからないけども、きっと完成すればとてもいい曲になっているだろう。





週末・・・
僕は希美、アケミちゃんと一緒に病院の前にいる。
明日退院ということなんだけども、郁人君に言われたから・・・

というかこの二人は約束がなくっても週末に来る様な気がします・・・郁人君・・・
しかも希美たちの学校から帰る時間のころには面会時間が終わっているということもあり、週末しか会える時間がなかった。

「すーはー・・・・き・・・緊張します。お兄ちゃん・・・」
「ま、まぁリラックスリラックス・・・落ち着いていきましょうよ」
なぜか敬語の兄妹。
「倒れてからというもの、希美、早川さんと会ってないから緊張するよー・・・しかも正式に・・・断られた後の面会だし」
「あっあはははは・・・」
アケミちゃんは何ともいえないような顔で返す。
そうだよな・・・
僕はこの二週間くらいに何度も会いに来てるからどうでもないけど、
希美にとっては久しぶりでしかも状況が・・・

うーむ・・・何と言っていいか・・・

「うん!!希美!!行きます!!」

決心して病院の中へと入っていく。
僕たちはそれに遅れないようについていく。

(裕之さん、希美ちゃんって何かあったんですか?)
アケミちゃんが小さな声で尋ねてくる。
(いやー・・・郁人君から正式に誘われてね・・・何を言われるのかと警戒してるんじゃないかとね)
(なるほど・・・それは・・・・・・私まで緊張して来ました・・・)
(いやいやいや・・・)



郁人君の病室の前に来た。


希美は深呼吸をしている。
ううむ・・・コッチも緊張してきた・・・

「いざ・・・」

・・・古風だな・・・


希美は扉を開け放った。

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