BATON
〜偽善〜




「ニニアー!!」
「あなたはあなたの道を生きて!!過去に捕らわれないで!!」
ニニアは扉の向こうに駆けて行った。みんなを守るために。
おれは何もできないのか!?仲間一人の命も守れないなんて・・・
「うあー!!!」



流れるテロップ、その後の主人公の人生がバックで流れている。
主人公はその後必死に生き抜き、ニニアの信念をつらぬいた。
みんなの笑顔を守るために。



「・・・この映画って、五年前のB級映画じゃ・・・」
サトシ君は冷静な分析をしている。
大学から帰ってきたらテレビで映画の放送をしていて、それを成り行きで見る事になっ
た。
僕はみた事あったんだけどほとんど内容を忘れていた。
だけど前見た時と同じく、主人公の生きかたに何か共感できるものがあった。
「アカリわかんなかったー!」
大学から帰ってみるとアカリちゃんはもう帰っていて、昨日の状態に戻っていた。
何がこの子を変えたのか、うーん謎だな。

「あれっお父さんまだ帰らないの?もう7時だよ?」
というアケミちゃん。ほんとだ。
尚人さんの仕事は早朝出勤で4時終わり、家から10分で会社に着くらしいけど・・・
もしやあそこから動いていないのでは?
ぶるっ

なぜかからだがふるえた。
言い知れぬ恐怖がよぎる。

がたっとゆれる玄関の扉の音、ギシギシと廊下を歩く音、なぜか廊下から風が吹く。
その風は暖かく湿気のこもっているもののように思えた。
「じゃっじゃあご飯ができたら呼んでください!」
失礼ながらもそうお願いして自室に逃げて入った。



だって・・・こわいんだもん・・・


今日は映画を見ているので少しご飯の時間を遅くすることにしたのだった。
部屋に入ると段ボールが5、6個ほど置いてあり、テレビや机、本棚も置いてあった。
いかにも引っ越してきましたって部屋だなー。
と他人ごとのように言ってる場合じゃない早く片付けてしまおう。
「机」って中国語では字の意味で「機」って意味があるんだよー
今日中国語の授業で習ったんだー



誰に言ってるんだ・・・僕は・・・



段ボールを開けて見ると中には夢と希望とドラマとロマンと・・・


がつまってるDVDだった。
一番最後に開けるべきものだったな。
何が入ってるのか書いておけばよかった。



あらかた片付いて、僕は少し休憩する事にした。
腰が痛い・・・
ちょうどいい所にツボ押し健康器が・・・
「おおぉぉぉーきくぅー・・・」
どれくらいそうしていたのだろうか。
僕の意識はそのまま遠く・・・




気がつくともう外は真っ暗、部屋の中も真っ暗、・・・?
電気着けて寝たはずだけど・・・



また毛布が・・・ん?
今回は・・・無臭だ・・・



もしや・・・ファブッた?



いやいや人の好意は受け取るべき、深く考えないように・・・考えないようにっと。


「ごはんできましたよー」
翔子さんからちょうどごはんのお呼びがかかった。



「尚人さん、消臭剤持って行ったでしょ?どこおいたんですか?」
翔子さんは言う。
予想は付いたけど・・・


何があったんだ尚人さん?
もともとどんな人なのかは分からないけれども、そんな人ではないはずだ。

と思いたい。



その日は身に迫る恐怖を感じ眠る事となった。

次の日、僕は足早に家を飛び出し誰よりも早く大学へと着いた。


門も開いてない・・・
まあ家にいるよりはましだ。ましだ・・・ましだ・・・



待つこと数秒、道の向こうから土煙を出しながら近付いて来るものを発見した。
事務の人かな?


近付いて来るにつれそのシルエットが浮かんで来た。


それは猛然と走る男。
それは見たもの全てを圧倒するもの。
それは人の欲そのものなのかもしれない。



尚人さんは僕におりタタミ傘を無言で手渡すとそのまま走り抜けた。



そのまま僕は立ち尽くした。
どれくらいたったのか・・・
いつの間にか門は開いていた。


どこにいても僕には安住の場所は無いのか・・・


「あのっ」
!!


僕はとっさにファイティングポーズで振りかえる。
「だっだれだ!!」
僕は今ごろアクション映画でも言わないようなセリフを言った。
「あのっえっと・・・その・・・」

正装をした昨日の女の子だった。
名前知らないんだけども。
その前に顔もあまり見ていなかった。
大学にいる人の一人一人の顔を覚えることなんてできるはずがない。
同じ学科の人くらいしかできない。
なのにこのこは覚えていた。
「昨日ちゃんと言えなかったので・・・昨日はどうもありがとうございました。」
僕は女の子が苦手だ。
しかし僕はなんで昨日の子とすぐに気付いたのだろう。
「いや、いいよ・・・そんなこと・・・」
「いえっ助かりました!ほんとっありがとうございました!」
再度頭を下げる女の子。
これじゃダメだ。
「じゃ、ぼくは食堂に行かなくちゃだから・・・」
朝ご飯を食べることなく学校に来たのでお腹が空いてたまらなかった。
「あのっ!失礼で無ければ食堂の道案内を頼みたいのですが・・・」
断る理由もないけど・・・
「でも、友達と行った方がいいんじゃない?こんな僕なんかじゃなくて」

もっともらしい理由を付けて巧みに避ける・・・
「新入生なんでまだいません。しかもこんな時間に新入生はいませんよ」
・・・ことができなかった。
ならキミはなんできたの?
とは言えなかった。
「・・・じゃあついてきて」
昨日と同じ言葉を言うぼく。
付いて来る女の子。


適当にサンドイッチを注文をして席につく僕。
女の子も席につく・・・僕のとなりに・・・
食堂は混み合っていた。しかも新入生で・・・

「話が違うのですが・・・」
「・・・すいません新入生歓迎食事会のこと忘れてました・・・」

なんか視線を感じる。
上級生はやっぱ目立つのか?
新入生は入学記念写真撮影のため正装していた。
普段着の僕は目立つ。
隣りに正装した子がいるからなおさらだ。

他の席から会話が聞こえる。
「あのこ、もうサークルにめをつけられたのかな?」

「どんなサークルかな?」
とか聞こえる。

「先に言っとくけど・・・僕はサークルに入ってないから」
「そうなんですか、少し安心しました」
「・・・なんで?」
女の子は少し笑いながら答えた。
「私、運動とか苦手だし。飛び抜けたものもないので・・・先輩に言われたら恩返しでつ
いて行っちゃいそうで・・・」
僕は
「僕がキミにしてあげた恩なんてないよ。全部自分の都合だよ。昨日だって案内が面倒で
行っただけだし」
とおそらく思っていた事を言った。
面倒なのは嫌いなんで・・・

「でも・・・助かりました・・・」
女の子は微笑む。

僕はなぜか突然、その場にいる事が恥ずかしくなり、食事をちょうど終わらせていたの
で、立ち上がって皿を片付けようとした。その時、
「私、嵯峨野美夕(さがのみゆ)って言います。これからよろしくお願いします!」
と大きな声で言う。視線が集まる。

その日の昼食、僕は男女問わず、いろいろな新入生に声を掛けられた。

一緒にごはんどうですか
とか
学生センターはどこですか
とかいろいろ。

その様子を見ながら長瀬君は、
「くそっ!うらやましすぎるぞ!ササ!なんでお前ばっか!」
とかいってる。
長瀬君のサークル(アメフト)には女の子はあまり期待できないんじゃないかな?
うん



あっという間に放課後、一日がこんなに早いものだとは思わなかった。
それも朝のあれのせい。
放課後も新入生にかこまれながらいろんな店を紹介しまくる事となった。


「おつかれですね」
どこからともなく聞こえる声。
ある意味全ての元凶ですかね。
「うん。疲れた」
素直な感想、そしてちょっとした指摘。
「でもよかったです。こんな先輩がいるとわかって」
嵯峨野さんは言う。
「・・・僕はみんなといっしょ。僕もみんなのうちの一人なんだよ。」
と僕はサークルの人達を思いながら言った。
「だからです。サークルに入ってないのに新入生に優しくしてくれる先輩なんてほかにい
ません」
そうだ。
なんで僕はこんな事をしたのだろう。
ただ断ればよかったのに・・・
うーん
「まっ、人が困ってるなら助けるか見ないフリするかだったら、精神的に助ける方が楽だ
と思わない?だからだよ」
不思議と言葉が出る。
女の子が苦手のはずなのに・・・
今日はいろんな人と話したから感覚が麻痺してるのかも。
「それが優しいって言うんですよ」
また笑顔で言う嵯峨野さん。
僕は少し恥ずかしくなった。


人に優しくする事、それは自己満足、情けは人のためならず、という偉い人の言葉がよく
わかる。
僕は人の幸せで自分の幸せを感じる。
いいことした。自分っていい人だ。
と少なからず僕は思う。
「私は思うんです。あの『人の嫌がる事はすすんでやりなさい』ってのと一緒で『しない
善よりする偽善』って感じで・・・何もしないで、人にとっていいと思った事だけをするより人の評価
をもらおうと努力している人のほうが偉いんじゃないかって・・・結果的に助けて、評価
を受けるくらいの事を成し遂げたって事じゃないですか」
なんか妙に納得した。
どんなに美辞麗句を並べようと、結果は自分のしたように、自分のしなかったように、自
分の行動によってしか現れない。
なら行動したほうがよい結果になり、何かを得る事が多い。
無欲なんて無い、人の幸せが自分の幸せにつながるから。



ある意味、一石二鳥だな。



それから僕は家路につき、少し遅めの夕食を食べた。
食欲を満たすため、料理を作った人への僕の感謝をあげるために。


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