BATON
〜不安〜




僕は携帯を見る。
「やばいやばいやばいやばい!」
時刻はもう九時を指すところ、一時間目には充分遅刻である。
自転車を担ぎ出し、一気にギアを最大にして、それはもう必死にこいだ。
なんでこんな時間になったんだっけ?
昨日遅くまで課題をしていたからか?
いや、そうじゃない。
昨日は遅くまで、アカリちゃんとゲームをすることになってしまい。
いやいやそうでなくって、サトシ君も受験生だから宿題を見てくれと。
もうなにがなんだか・・・

そして何とか到着、時刻は九時半、教室に行かなきゃ!
と今日初めて自分の履修確認する。



今日は一時間目はなかった。
そんな・・・そんなばかな!!
そんなベタな展開この頃好まれないぞ。

なにはともあれ暇ができた。
それはいい事だ。
暇はいくらあってもありすぎるという事はない。
「ああ゛〜」
僕は疲れがドッと出て、ベンチに腰掛けた。
上を見上げると怪しい入道雲がこちらに向かって来るのが見えた。
やばい!
と思い、近くにある学部棟にはいる。
案の定、すぐに雨は降る。
しまった・・・傘忘れた・・・
あんなに急いで来るから・・・
僕は目の前の絶望をじっと見ていた。
まあ入道雲だからすぐにどこかに行って降り終わるだろう。



「全然だ・・・」
さらに降る雨、全く止む気配なし。
走るか?
と走ろうとした時、
「笹原さん?」
と声を掛けられる。
振り替えると眼鏡を掛けた男の子が。
「ああ、郁人君か」
「あれ?僕名前の方言いましたっけ?」
「ルナちゃんからきいたから」
「えっルナから?なんで知ってるんですか?」



「なるほど、笹原さんも大変ですね」
「いやー自分でやったことだし」
今思えばなんであそこでルナちゃんは名乗ったのだろうか?
赤の他人ってわけではないけど。
「なるほど、それで昨日は」
という郁人君。
「なにかあったの?」
「昨日帰ってみるとルナがいつもと違う雰囲気だったんですよ」
「ふーん、それがなにか」
「なにか思い詰めていたみたいで」
「ふむふむ」
「ルナのことよろしくお願いしますね」
「うんうん・・・はっ?」
今なんと言いましたかこの人は?
「笹原さんなら大丈夫です」
「なにがでございましょうか?」
「妹の幸せを願うのは兄として当然です。幸せにしてあげてください」
ととってもいい顔しながら言う郁人君。
何か僕と違う事を考えているのか
「・・・・」
「じぁあ僕はこれで」
行ってしまう郁人君。
「まっまってー!」
僕は叫ぶ。
「傘の中入れて欲しいんだけど・・・それと君の思ってることは多分、僕と論点がずれていると・・・」



『雨は帰りの時間まで降っていた。その雨を見ながら僕は思うのだった。(たーりー)
と』
何書いてるんだ長瀬君・・・
なぜか彼は今日、授業中寝ることもなく、普通に授業を受けていた。
現実逃避?この日記みたいなのは運動系の長瀬君がすることじゃないな。
僕は長瀬君を置いて、教室を出た。
 外は朝からの大雨、何か憂鬱・・・


傘忘れたんだった。
どうしよう・・・


僕は急いで外に出て自転車に乗り校門まで走りそのまま帰ろうとしたところ校門の前で小
さな傘をさした子がいた。
どう見ても、大学生では無い。
近くに寄るとすぐにその正体がわかった。
「ルナちゃん?」
僕はそういうとこちらに体を向け、
「こんにちは、笹原さん、実は・・・」
ルナちゃんは僕の姿を見た。
そして・・・
「・・・わたし、おりたたみ笠持ってますよ」
「・・・・かたじけない・・・・」


僕は何かのアニメっぽいプリントが入っている傘をさした。
少し小さいけど雨を凌ぐには充分だ。
そのかわり回りからの目が集中する。


恥ずかしい・・・
「お兄ちゃんならまだだと思うよ。一年生は何かと忙しいから」
と僕は言ったけれども、
「いえ、笹原さんに話をしに来たんです」
と真剣な面持ちで言うルナちゃん。
「・・・わかったよ。じゃあそこら辺の店へ」
ただならぬ雰囲気を感じ僕は学校から近い店に入る。

僕らはマックへと入っていった。
雨のせいか中には人があまりいなかった。
適当に何か頼んで奥にある二人席に掛ける。
「ここは僕持ちでいいから」
「そういうわけには・・・」
「こういうところは年上に任せるものだよ。それが年下の特権と言うもの!僕もよく利用
したもんだなー」
「ふふっじゃあお言葉に甘えて」
ルナちゃんはそういって少しずつ食べ出した。


「笹原さん、お兄さんと仲がいいんですよね?」
そうなのかな?うーん
「あったのは昨日、あー・・・でももう友達って言えるかもね。アドレスも教えてもらったし」
そういうとルナちゃんはパアッと明るくなって、
「そうなんですか!?よかったー・・・お兄ちゃんあんな体だからあんまり友達作らなく
て、大学でどうなるか心配だったんです」
という。
7歳なのにしっかりしてるなーと・・・いやしっかりしすぎなんじゃ・・・
いやそんなことより、
「体が・・・どうかしたの?」
「お兄ちゃん何もいってないんですか?」
「うっ・・・うん」
「そうですか・・・」
シュンとなる顔、何が郁人君の体にあるんだろう。
「お兄ちゃんがいってないなら私は言えません、すいません・・・」
と頭を下げる。
何があるのかはわからないけど頭を下げられて謝られるのはあまり好きじゃない、相手が
非を感じていると言う事だから。
「・・・何があっても僕らは友達だから大丈夫だよ。お兄ちゃんは優しいし。一緒にいる
のが楽しいと思うし」
まだ親しくは話していないのだけど、僕と郁人君は気が合いそうな気がする。

「でもお兄ちゃん早とちりする傾向があるね。それは直さなきゃ」
「はい・・・そうなんですよ!お兄ちゃんってば・・・」

それから話は続いた。
ルナちゃんは郁人君のことを話続けた。
ほんとにお兄ちゃんのこと大切に思ってるんだな・・・ 

食べるものがなくなったので席を立ち、店を出ることになった。
「今日話せてよかったよ。二人のこともわかったし、この町についてもだいたい分かっ
た。ありがとね」
と僕は本当のことを言う。
「いえそんな・・・こちらこそ話しに付き合わせてしまって・・・ごめんなさい」
「僕はね。謝られるのはあんまり好きじゃないだ〜。こういう時は素直に」
「あっ・・・はい。ありがとうございました・・・でもなんでなんですか?謝られるのが苦手な
のって?」
僕はいつも思っている事を口にする。
「ごめんなさいって自分の非を感じていると言うセリフでしょ?相手の人にそんな事言わ
せたくない・・・それなら相手も笑顔で言えるありがとうのほうがいいと思うんだ。って
いうと嫌らしい感じがするかな?ごめんね?」
「素直に?」
「話を聞いていただきありがとうございます」

僕らは笑った。

「そういう考えって素敵ですね」
「べつに?普通だよ」
「そういえるのが素敵なんです」
なんだかてれる。
「それにしてもしっかりしてるよね。ほんとにアカリちゃんと同級生?」
僕は話題を変える。
「いえ、私は六年生です」
どうりで・・・
「なるほど、8歳くらい違うんだね。お兄ちゃんと」
「はいそうなんです。でも仲はいいんですよ」


雨はまだ降っている。
「傘、今日一日貸してくれるとありがたいんだけど・・・」
僕はあのおりたたみ笠をかりたいと思って言った。
「そうですね。じゃあ一つ条件を・・・」
ルナちゃんからの思いも寄らない一言。
思わずみじろぐ、
「なっなに?」
僕は身構えながら・・・ってこんなの多過ぎだな、
僕は構えを解く。
「それはお兄ちゃんとずっと仲良くしていただくことです」
・・・なんだそんなことか。
「うん、もちろん!!それに君ともね」

「えっ・・・あっはい!よろしくお願いします」
少しびっくりしてた。
当然なことだと思うけどなー。
「うん、よろしくね」


家につき玄関の戸を開けた。
「おかえりなさい。」
とたまたま玄関にいて、出迎えてくれるアケミちゃん。
そして僕の持つおりたたみ笠を見る。
「・・・・・プッ」
わらわないでください。


その日の勉強時間、不意に話題が学校での話になった。
何日も勉強やってるからアケミちゃんも最初の緊張もとれている。
「そういえば卒業式の時、前で最優秀成績者みたいな人が表彰されていたんですよ」
ああーそんなのあったなー。
「その人、早川って名前だったと思うんですけど、すごい人なんですよー。生徒会長やっ
てて、文化祭や運動会で前年度では考えられなかった奇抜なアイデアをずばずばと出し
て、最後に卒業式で 僕らがここにいた事を形として残すのではなく、みんなの心に残し
たい。一緒に、日々を共にした仲間の中に っていう言葉・・・今でも覚えてます。感動
しました」
「でもその本人はあまり人と深く関わろうとはしなかった・・・か・・・」
アケミちゃんは目を丸くした。
「・・・よく知ってますね。会長の事」
「うん・・・」
「その会長って実は重い病気を患っていて後何年か後には・・・ってものがあったんで
すよね。そんなに会長体調悪いふうには見えなかったんですけど・・・変なうわさ流す人もい
るものですね」


僕は感じた。不安を・・・
高校時代のあの時と同じ・・・違うけど同じ不安・・・


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