BATON
〜約束・後編〜




僕らは駅前で待ち合わせをする。
駅は日曜日と言うこともあって人でごった返している。
ここから先輩を見つけ出すとすると至難の技だ。
「だーれだっ♪」
いきなり視界が閉ざされる。
この状態で言うのはただ一人。
「先輩でしょ」
「ぶー」
絶対にこの声は先輩なのに。
振返るとそこには二、三歳くらいの子が目を隠しているのに気付いた。
「なに子供にやらせてるんですか・・・先輩」
「だーれだっですが〜?」
はあっ・・・

先輩の格好はいつもとは違い、とてもラフな格好だった。
制服の時とはやっぱ違うな。
なんというか・・・新鮮さが。

「今度、誰かに使ってみてねー♪」
「うんっ!ばいばいおねーちゃん」

バイバイと手を振る先輩と女の子。
僕も一緒に手を振る。
「さっ、早速行くとしますか!」
先輩は僕に向かって言った。
「まずはどこに?」
「腹ごしらえ!」
「そうですね。じゃああそこ行きますか」
僕らは日本で一番メジャーなハンバーガー店にはいる。
「ササ、なんでマックってMacintoshって言うのにマックなの?」
「それは頭文字・・・じゃなくって英語の略がMacになるからですよ」
「ふーん、じゃあマクドナルドもそうだよね?なら先にできたマクドナルドの方が先だよね?なんでMacintoshはマックにしたんだろ?」
そんなこといわれても・・・
「・・・ノリ?」
「古い・・・マッシュとかマッキンとかにすればよかったのに」
などと変な会話をしているうちにテーブルから食べ物は無くなっていた。
「さっそろそろだから行こっ」
「はい、行きましょう」
僕らはトレーに残った包装紙、ナプキンをゴミ箱に捨てた。
と思ったら先輩はトレーに残った一、二枚のナプキンを取ってから捨てた。
先輩いわく、
『これぞエコ!!』
らしい。
でもこういうのって使いどきが分からなくてちょっと厄介だ。
いつ使うのか、まあそんなことどうでもいい。
今は映画にいくのが大事だ。


僕たちの見る映画はBATONという映画だった。
内容はあるブラスバンドの物語。
ある少年の挫折と希望、友情と青春の物語


「ああーよかったー」
先輩は伸びをしながらいう。
「そうですね。ストーリーもよくできてましたし、自分達とダブって見られましたし」
「うん!やっぱ部活が一緒の人と見れたら楽しいよね!でもあの演奏は・・・」


「まあしょうがないんじゃないですか?俳優が多かったっぽいですし」
本家、吹奏楽部からとってみると演奏が付け焼き刃といったかんじ。
でも頑張ってるのはかなりつたわってきた。
「今の映画の主人公ってササに似てない?」
「そういえば・・・ってそんなにパッとしない顔ですか?ぼくは」
先輩は笑顔で
「うん!幼すぎな顔、幼すぎな身長。プラス純な考え方」
うっ・・・
「それグサッと来ますよ・・・もろに・・・」
「でもそれが君のいいところだ!先輩、大好きでござるよー」
「そっそんなことよりどこか行きません?時間もありますし」
「てれるなー、若人ー。素直に喜べってー」

そして僕は先輩にからかわれながらもその日を有意義に過ごした。
その日の分かれ時、
「ササ、私次の日曜大会あるんだー」
「へー、やっぱあのフルートのですか?すごいですよね。大会から直に招待状が来るなんて」
先輩は少し照れながら。
「えへへー、いいでしょー」
と笑顔で言う。
この笑顔が僕は好きだ。
「私のフルートでこの大会でもし入賞できたら・・・」
先輩はここで押し黙る。
そして少しうつむき加減になる。
「・・・でも先輩の腕だったら入賞どころか」
といきなりがしっと肩を掴まれた。
僕は少なからず驚く。
「いい!?もし私のフルートで入賞できたら私の願いを一つかなえて!」
「んな、いきなり!」
何を命令されるか考えるだけで恐ろしい。
「願いごとは簡単なことなの!いい!ぜったいよ!」
と言い、先輩はチケットを渡し、そこからさっといなくなる。
いきなりのことで僕は先輩を追うことができなかった。
せめて内容だけでも・・・



次の日曜、天気はあいにくの雨。
でもホール会場の大きな設備の前では全く関係がない。
ただ湿気の調子だけ変わるのである。

僕は先輩からもらったチケットで先輩のお母さんと座っている。
きちんとした服を持っていないので制服できたのだが、ちょっと失敗したと感じた。
みんなやっぱりキチッと着こなしている。
ホール前でいると先輩のお母さんにあった。先輩のお母さんは僕の顔を見るとすぐに微笑
み、優しく話しかけて来る。
先輩は今年に入ってから元気になったとか、先輩のうちでは僕の話題がよく出るとか。
いろいろ・・・
僕はとても幸せに感じた。
先輩は僕のことを身近に・・・
それだけで胸がいっぱいになった。


プログラムによると次が先輩の番だ。
なぜか僕も緊張する。
どきどきしてきた。


「えー、プログラムによるとつぎは黒崎恵さんですがまだいらっしゃらないようなので、
つぎの人に入ってもらいます。つぎは・・・」
会場はざわめいた。
あの黒崎が。とか、演奏聞けないのか。とかいう声が聞こえる。
僕らは呆然としている。
「ケイちゃん、わたしより早く出たんだけど・・・」

僕はその言葉を聞きいても立ってもいられなくなった。
席を立ち、ホールから出る。
そして傘も差さずに駅までの道を走って戻っていく。
嫌な予感がした。
胸の中が不安でいっぱいになる。
駅に向かう途中に警察がいた。
僕はその警察に聞く。
「すいません!この辺りに髪が長くて白い綺麗な服をきた女の子見ませんでしたか!?」
警察は
「もしかして、フルートを持ってる女の子ですか」
!!
「その子です!!・・・なぜ・・・」
「・・・実は今朝事件が起こりまして」





病院に着くとすぐにある部屋に案内された。


そこには先輩が綺麗な顔で目をつむり寝ていた。


しかし、先輩は息をしていない。


心臓は鼓動をうっていない。


看護師の人は言う。
「黒崎恵さんです」
淡々としゃべる口調。
「・・・・・・ちがうよ・・・先輩じゃない」
僕は後ずさりをしながらいう。
「いえ、学生書から黒崎さんと」

「ちがう!!ちがうちがうちがう!!!」
僕は叫ぶようにいった。
「ちがう・・・違うんだよ・・・先輩はこんなに・・・こんなに冷たくない・・・
先輩はいつも笑顔で・・・おしゃべりで・・・いつでも僕の支えになってるんだ・・・
いつでも先輩は・・・こんなの・・・先輩じゃないよ・・・」

目の前にある先輩のからだ、しかし先輩はそこには入っていない。
・・・目の前にあるものはなんだろう?
人形?
先輩はどこにいるんだ?
探さなきゃ
「・・・どこにいるんですか・・・先輩に会わせてください・・・
大会に連れて行かなきゃ・・・先輩と約束したんです。賞取ったら何でも願いごとを僕が叶えてあげるって・・・
先輩との約束破ったことないんです・・・
だから今回もその約束を・・・願いを叶えてあげたいから・・・先輩の約束も叶えなきゃ・・・
絶対賞取るって言ってたから・・・先輩に会わせてください・・・あわせてよぉ・・・」

僕はもちろんのこと、誰も分かるはずの無い質問を投げ掛けていた。
「気を確かに持ってください!」
看護師がいう。
こんなの・・・先輩じゃない。



僕はその部屋の前にあるソファーに何時間座っていただろう。
涙なんて出なかった。
悲しみがない、楽しみもない、苦しみも、怒りも・・・
僕の感情は全てなくなったようだ・・・

先輩のお母さん、続いてお父さんがそれぞれはいっていった。
でもそれ以上は覚えていない。
何も考えられなかった。
泣いていたのかも分からない。
僕の横には先輩のフルートのケースが置かれている。
先輩はこのフルートを最後まで守っていたらしい。
先輩らしいな・・・

そのフルートを見るとなんとなく寂しそうに見えた。
今日、思いっきり音を出す準備をしてたんだよな。
ケースを開け、僕はフルートに触れる。
冷たい感触、先輩と一緒だ。


「ヒロユキさん」
先輩のお母さんが話しかけて来る。
だいぶ落ち着いたらしく、お母さんは穏やかに話しかけて来る。
「すいません・・・ぼく・・・すぐに知らせずに・・・」
「いいの・・・事実は変わらないから」
悲しそうに言う。
当たり前だけれど。
「ケイちゃん、今日家を出る前言ってたの・・・今日賞取ったらヒロユキさんに叶えても
らう約束があるって」
うれしそうだったわ。とつけたすお母さん。
「そのお願いは・・・ほかでもない。ケイとヒロユキさんのことで・・・
今日入賞できたらヒロユキさんに『ケイ』って呼んでもらうんだって・・・
私のフルートだったら絶対オッケー・・・強制的に呼ばせることになっちゃうけどね・・・って・・・
今までにしたことがない笑顔で言ってた・・・ほんとにッ・・・うれしそうにッ・・・」
堰を切って流れ出す涙。
お母さんは落ち着けるはずもなかったんだ。


僕もそうだった。
先輩って変に律義だよな。
いっつも困るようなことは平気で言って・・・
僕にとって・・・こんな簡単なことを・・・
こんなにも・・・うれしいことを・・・


「・・・うっ・・・うぁぁああっ・・・あぁぁぁっ!!
・・・・・・」
止められなかった。
僕は涙が涸れるまでなき続けた。
喉がつまり、カラカラになる。
目が熱く、痛く、何も見えない。

僕の学生服の袖は水にでも浸かったようになっていた。


その時僕はわかった。
先輩のことを・・・好きだった・・・大好きだった・・・

先輩がいなくなったあと気付くなんて・・・

僕は・・・・・・・






今の僕の涙は尽きた。
そして立上がり、DVDをプレーヤーからぬく。
それをしまい。
僕は呆然とする。


そして、引越しのとき直接手で持ってきたフルートのケースを取り出す。


とても手入れの行き届いた銀色に光るフルート。
僕はそのフルートを抱く。



ケイ・・・僕頑張ってるよ・・・
音大にも受かってもう3年目だ・・・
練習も毎日学校に残ってやってるよ・・・
ケイに言われたことを思い出しながらね・・・
まあ、時々こうなっちゃうけどね・・・
これは僕が弱いからなんだ・・・
知ってるでしょ?僕が弱いこと・・・
ケイ、早く君みたいに強く優しくなりたいな・・・


今の時間ならまだいいかな・・・

僕はケイのフルートをセッティングする。
そして音を奏でる。
・・・彼女は言っていた。

『私の音は音楽なの。私も楽しめて、聞いている人も楽しめる・・・そんな音なの・・・っ
て自意識過剰かな?』


そんなことなかった。
周りの人はすべて彼女の音に聞き入っていた。


そんな音楽をいつか僕も奏でたい・・・

僕は音を奏でる・・・僕の音を奏でる・・・

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