BATON
 
〜家族・友達〜
 
僕はアケミちゃんに話した。
フルートのこと、過去に起きたこと、ケイのこと・・・



アケミちゃんは何も言わずに真剣にその話を聞いてくれた。


僕はどれくらい話していたのだろう。
映画館の上映フロアから人が出てくる頃まで一人話し続けた。


「・・・これで終わり・・・最後まで聞いてくれてありがとう・・・」
僕はなんだか全て話しきったせいかすっきりとしていた。
誰かに知って欲しかったのかもしれない。
その話を聞いてくれたアケミちゃんを見ると目から涙が流れていた。
「・・・つらかったですよね。かなしかったですよね・・・好きなひとを失ってしまう
のは・・・私は・・・耐えきれません・・・」
そして手で顔を覆う。

僕は少し後悔をした。
この話をしなければアケミちゃんは悲しまずに済んだはずだ。
アケミちゃんの言うとおり僕は悲しみがずいぶんと減った気がする・・・
だけど、アケミちゃんは悲しみが増えるだけ・・・



スパーン!!!



頭を紙質の何かで殴られた。
正面には長瀬君が立っていた。
「ササ〜お前、アケミちゃんを泣かすなよ!」
長瀬君のこの言葉で僕はなんだか自分は弱いなと実感した。
だけど、
「!!・・・叩かないであげてください!!」
と長瀬君を止めるアケミちゃん。
涙声ながらも大声で言う・・・

長瀬君は長瀬君で本気では怒ってないので少し焦っていた。
「叩かないであげてください・・・笹原さんは・・・兄さんは悪くないんです。わたしが
勝手に泣いたんです」
と僕の前で手を大きく広げながら抗議する。
「いや僕が」
「いいえ兄さんは悪くない。兄さんが一番つらいんだから・・・」
長瀬君に向かってとは違い優しい口調で話してくれるアケミちゃん。
たまらず長瀬君は
「えっと・・・ごめんな・・・ささ・・・いきなり殴って」
「いやいいよ。長瀬君、本気じゃなかったんだし」
全然と言っていいほどいたくない攻撃だった。

僕を殴った凶器はパンフレットだった。
「これ、少し曲がっちゃったけどやるよ」
「いや、ごめん・・・この映画だけはちょっと」
僕は断る。


この映画は僕にとっていろんなものがつまっているから。



結局、その後は買い物にいったり、ゲーセンにいったり普通に過ごしただけだった。
僕はカラ元気を出し最後まで付き合ったのだった。

だけど、明美ちゃんがいきなり兄さんといいだしたのはなんでだろう。



最後は、
「じゃあまたな、ササ、アケミちゃん」
「うんまた明日」
「また・・・」


「ササ・・・」
長瀬君は僕だけを呼び止める。
「ん?なに?」
僕は普通に振り返って長瀬君を見る。
そこには長瀬君のいつもの笑顔があった。
「ササ・・・俺やっぱだめだ・・・アケミちゃん、あきらめるよ・・・」

僕は驚いた。

長瀬君はいつも目をつけた女の子がいればその子をずっと追いかけて、
蹴り飛ばされるまで決して離れない・・・そんな人だった。
「でも・・・まだ大丈夫なんじゃない?今日も後半は楽しんでたみたいだし・・・」
僕はいつもとは違い、フォローに入る。
いつもはもう止めておいたら?とかいうのが僕の役目だったからだ。
「いや、もういいんだ・・・」
頭をかきながらいつもの調子で言う。
いつも笑顔を絶やさずに・・・
その笑顔は今日はなぜか曇って見えた。

「今日付き合ってみてわかった!!あの子は俺みたいなのと一緒にいるとだめになる!!
だから俺はアケミちゃんの将来を思って身を引いてあげるんだ!!
なんて女の子思いなんだ俺は!!自分で泣けてくるくらい男らしいぜ!!」
と変なことを言う。
僕は彼が虚勢を張っているようにしか見えなかった。

しかし僕には彼の真意が見えなかった・・・
「うーん・・・まぁそれなら・・・これからもがんばってね。応援してる」
僕はいつもの言葉を返すことにした。

「おぅ!!」

手を振り上げながら答える。
とりあえず元気みたいだ。
「じゃあな!!」
そう言って長瀬君は僕と逆方向へと歩いていく。
僕も家への道を歩いて帰ろうとする。


「ササー!!なんか困ったことがあったら何でも言えよー!!
お前の相談は何よりも一番に聞いてやるからなー!!」

長瀬君は大声で叫ぶ・・・

「恥ずかしいんだからそんなこといわないでーーー!!」
僕も大声で叫んだ。





(俺なんか見てなかったな・・・あの子・・・)





「さあ、兄さん!家ではご飯が待ってますよ!」
とアケミちゃんは元気に言う。
いつもより元気っぽい。
「んー・・・そだね。かえってすぐ食べたいなーおなか空いたよー」
と言いながら家路を急ぐ。

ここで僕は気になっていることを話した。
「ねぇ、さっきから気になってたけど。何で僕のこといきなり兄さんって?」
アケミちゃんは振り返り笑顔でこう言う。
「だって、ハトコの年上の人でしょ。だったら兄さんじゃないですか」
と得意げに言う。
「うーん、それもそっか」
僕は何でいきなりか聞きたかったんだけど・・・
まあいいか。

家に帰りすぐに食事となる。
日曜日ということでみんな席に着いており、久し振りの家族全員そろったご飯になった。
そろったご飯のときはいつもおかずはバイキングみたいなセルフサービス式になる。
「いただきます」
僕はまず、メインのおかずを取りたいと思ったけど遠すぎて取れない。
「とってあげますよ」
といつもは翔子さんがいってくれるんだけど、今日はアケミちゃんが取ってくれた。
「ありがとうねアケミちゃん」
「いいえ、おかまいなく」
アケミちゃんは笑顔でいってくれる。
僕も笑顔で皿を渡す。
その様子を見た翔子さんは、
「あらあらあらあら、なかがよろしいようで」
とニコニコしながら言う。

照れながらも僕はアケミちゃんからお皿を受け取る。
「そうだ!今日花火かってきたんです〜あとでやりませんか〜」
「いいですねー」
みんなの顔を見れば・・・
サトシ君はなんか嫌そう・・・
「わ〜い!花火だ〜」
とはしゃいでいるアカリちゃん。
「・・・」
無言でうなづく尚人さん。

何を考えているのかご飯も早々とすませ部屋に戻る。
そしてカメラを持ってくる。
カメラかーイイ考えだな。

「ごちそうさま!今日も美味しかったです」
「いえいえ〜♪」
僕は部屋に戻り、呼び出しがかかるのを待つことにした。





「兄さん、始めますよー」
アケミちゃんの声。
僕は用意をし、早速外に出ることにした。
近くに水もすぐに用意できるし、近場でも数少ない花火OKの公園がある。
そこで僕らは花火をすることになった。


「知ってる人にプライベートで会うの苦手なんだよなー」
とサトシ君は愚痴をこぼす。
何となく分かるけどもそれはそれでイイものだと思う。
他の人のプライベートな部分とか見れたりしてね。


そして花火を始めた。
手頃なサイズの花火を手に取り、点火する。
火は七つの色を出し美しく消えて行く。
花火ははかなく、人の一生のようなものだと人は言う。
僕はその一瞬のはかなさにこそ美しさはあるのだと思う。
今まさにその感情が僕の心の中にある。




尚人さんは花火もせずに写真を撮りまくっている。
8割方僕のことをだ。
・・・なんかいや。



最後には線香花火という相場は決まっている。
誰が言い出したのかわからないけども、これも日本の情緒ってやつかもしれない。
一つ一つみんなは手にとり火を着ける。
僕はその前に、
「すいませんトイレに・・・」
さっきから我慢の限界だった。
家に帰ってからも一度もトイレに行ってなかったんで・・・
今までのムードも全て台無しだ。
でも線香花火にはそんなもの吹き飛ばす力がある・・・と思う。
いや、思いたい・・・



すっきりして帰る途中、ベンチに腰掛けているアケミちゃんと翔子さんが目に入った。
アケミちゃんは泣いていて、翔子さんは頭をなでてあげている。


何があったのかは分からないけど、僕は出て行きづらかった。


そっと、ずっと見守っていた。

しばらくして、アケミちゃんが泣きやんだところででていった。
「いやートイレが混んでてねー」
というと、
「夜の公園のトイレはそんなに混んではいないですよ」
とアケミちゃんは笑いながら言う。
よかった・・・元気みたいだ。

僕は最後の線香花火をとり、火を着ける。
パチパチと音を鳴らしとてもきれいに火花を散らす。
みんなが僕の花火を見ている・・・
なぜかわからないけど緊張するんだよね・・・こういうの・・・

最後にぽとっと・・・



落ちなかった。
「あっヒロくん当たりだね♪おめでとう!」
とアカリちゃんは言う。
なんか・・・
得した気分になるのはなんでだろう。


翌日


「裕之さんあさですよ」
という声が聞こえる。
僕は気付いた。
昨日の夜、目覚ましセットするの忘れた。
時計を見ると七時ちょうど、起きるにはちょうどいい時間だ。

「おはようございます翔子さん。すいません・・・なんか目覚ましまた忘れてたみたいで」
僕は目をこすりながらそういうと、襖の前に立っている翔子さん(?)はくすりと笑う。
「裕之さん私です」
目の焦点を合わせる。
そこにはアケミちゃんが立っていた。
いつも目覚まし忘れた時は翔子さんが来てくれたので今日はちょっと驚いた。
「ご飯の用意できてるんで早く下に来てくださいね」
そういってアケミちゃんは下のリビングに降りていく。
「・・・あれ・・・」
何か違和感が・・・


朝ご飯はいつもどおりのスローペース。
七時という時間に起きるのはこういったまったりな時間を過ごすためだ。
その行為にみんな賛成なのか、スローペースな食べ方ばかり。
食べ終わって僕は気付く。
今日は一時間目から授業があるから早めにでなきゃだ。
僕はごちそうさまをいい食器を片付け、自分の部屋に帰ろうとした。
そのとき、
「裕之さん」
とアケミちゃんは後ろから呼び止める。
「ん?」
僕は振り返る。
「私、結構しぶといんですよ」
とニコッと笑う。
「?」
僕も何だか分からないけどニコッとかえす。
そしてアケミちゃんの部屋に帰っていく。

あっ、さっきの違和感の正体が分かった。
アケミちゃんが僕のことを名前で呼ぶようになったことだ。

なんでだろ?

まあ、名前で呼び合うのも家族だよね。
そう思うと少しうれしいかも。


用意を終わらせ、僕は玄関に立つ。

僕は
「いってきます」
という。
そうするとみんなが
「「いってらっしゃい」」
と言ってくれる。

僕はいつもとは少し違う新鮮な気持ちで、学校にでかけるのだった。
 
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