今日私の家に小さいころ遊んでくれたお兄さん、はとこに当たる人が来るそうです。
私は会う前から緊張しちゃって、なんか落ち着きません。
学校の友達にはなしたら、お兄さんかー・・・いいなー
っていってました。
はっきり言って、十年位も前のことあんまり覚えてないんですけどね。





笑顔の人




その人が入ってきているのを私は廊下にちょっと顔を出し、覗いていました。
・・・そのとき、私は微々たるショックを受けました。

・・・・・・すいません・・・笹原さん・・・とても二十代の人とは見えませんでした・・・
身長もさることながら、顔も童顔で、「僕は中学生です」と言っても問題ないくらい若く見える。

そんな感じです・・・はい・・・

その人の顔を見ても、十年前のことは思い出せませんでした。



時間がたって夕食のとき、笹原さんにとっては初めて私と会うとき・・・
(十年前あったっぽいけど)

私の緊張は最高潮に達したのです・・・
何でかわからないけども・・・あんまり男の人とも話したことないし・・・

「次ーアケミちゃん」
と、母さんからいきなり呼ばれてあわてました。

「えっえーとこれからよろしくお願いしますッ!ご迷惑おかけしますがッ!17歳ですッ!」

と私は文脈も何もあったもんじゃない言葉を発してしまいました・・・
はっはずかしい・・・

それを聞いた笹原さんは、

「よっよろしく・・・」
と引いてますよ・・・おもいっきり・・・

ああ、これから教える教え子がこんな感じだと困るなー・・・とか、
国語は重点的にやらなきゃなー・・・とか思ってます・・・絶対・・・
はじめから躓いたんだ・・・私は・・・

「・・・・・・・・・・・・います。どうぞよろしく」


とか何とか思っているうちに笹原さんの自己紹介が終わってしまっていますーー!!
なんだかわからないうちに私は拍手している・・・

普通自己紹介で拍手はしないでしょ!!ああー・・・なんかだめだ・・・緊張しすぎてます。
だめだ・・・だめだ・・・平静に平静に・・・


私が落ち着いてから見上げると、笹原さんは食事中とも言うのに、顔色が悪い・・・

・・・・・・

私のせいなんですか〜?
ああ・・・どうしよう・・・

そうだ!!今日の夜から勉強見てもらって、そこでポイントアップです!!
そして私は勉強はできるんです!!(人並みには)ってことを証明するんです!!

そう思って私は気合を入れてご飯を食べる。

「あらあらあら〜アケミちゃん良く食べるわね〜」

お母さん・・・・・・突っ込みがきついです・・・
幸い、笹原さんは顔面蒼白(幸い?)で聞いてなかったから良かった・・・


食事も終わった・・・
勉強の準備も終わった・・・

いざ!!笹原さんの部屋へ!!

笹原さんはうちの和室を使っているので、移動が楽です。
なんと言っても、両手がふさがっていても襖を足で開けて・・・・・・

・・・・・・そんなんじゃいきなり私、行儀が悪い人と印象付けされてしまいます・・・・

正座で襖を開けるのは・・・
いや、それはやりすぎじゃ・・・





結局考えも浮かばないまま、笹原さんの部屋の前。
・・・・・・・
(とんとん)

私は襖の枠の部分をノックすることにした。
襖ではノックできないけど、枠ならば・・・
声をかけるのも良かったけれども、それは少しはばかられた。

いつまでたっても襖が開かないので、ちょっと心配して・・・

「あっあのっ!今よろしいですか!?」
と声を出すと襖が開いた。
なぜか笹原さんは良かった・・・っといった顔で私を見ていました。
何かにおびえているんでしょうか・・・

「わからないとこがあって・・・お暇ですか?」






「うーん・・・勉強はじめるのもいいけど、その前にお互いの詳しい自己紹介を!!」
と、笹原さんは言いました。
「えっ?」
私は驚いた。
今まで習ってきた個別の塾や、家庭教師の人は全然こんなことをしなかった・・・
まあ、笹原さんは家庭教師と言っても、講習を受けてない人だからそうなのかもしれませんが・・・

「僕の名前は笹原裕之、趣味は映画鑑賞って言ってもほとんどDVDだけどね・・・特技はフルート、
休みの日とかはよく学校で吹いてたりしてましたー。今はその分、音大で吹いてるからいいけど
・・・でもそれ以上に吹いちゃうんだよねー」
「吹奏楽部だったんですか?」
と当たり前のことを聞く私。
そんなことわかりきってるんですが・・・

「うん。フルートの音が気に入って入ったんだー・・・・・・うん・・・じゃあ次はアケミちゃん」
あれっ・・・気のせいかちょっと暗い顔・・・

あっ・・・私の番・・・
「わっ私は、小林アケミ・・・なぜかわからないけどカタカナの名前で・・・趣味は何でしょう・・・
テレビ・・・?ゲーム・・・?昼寝・・・?ええっと・・・とにかくいっぱいです。
部活は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いきなり気がついた・・・
私、名前で呼ばれた・・・
初めて男の人に・・・
なんかだめだ・・・また緊張してきた・・・リラックスリラックス・・・・

「・・・?部活は?」

「ぶっ部活は吹奏楽部でパーカッションやってます!!!」



「ふーん・・・じゃ、行きたい学校は・・・」
「近くの音大に・・・」

「じゃ、僕と一緒だね。これからよろしく!!」
と手を差し出す笹原さん。
「あっ、よろしくお願いします!!」

私もつられて手が出す・・・
握手を交わし、授業に入る・・・


このあとなぜか私はさっきまであんなに緊張していたのに、平然と授業を受けられました。
なぜだかわかりませんが、とても安心できたからのような気がします。





笹原さんは授業をしている途中に眠ってしまっていました。
やっぱり、引っ越してすぐはきつかったからなんでしょう・・・

私は音を立てないように部屋をあとにする・・・

廊下に出ると、お父さんが立っていて、毛布を持っていました・・・
と言っても、厚手ではない、春用のもの・・・

それを私に預け、部屋に帰っていきました・・・
これは・・・・・・



もういちど、笹原さんの部屋に入り、私は毛布を笹原さんの肩からかけてあげました。

こうしてみると・・・・・・


やっぱり、中学生くらいにしか・・・


身長・・・私よりもちょっと低いし・・・


でも・・・やっぱり、私よりも大人なんだ・・・


考え方も、人との接し方も・・・


この人は何か他の人からは感じられないものを感じられました・・・






笹原さんがうちに来てから3ヶ月、家庭教師の仕方にも慣れたらしいです。
だから私も気軽に質問できるようにもなりました。

そんなある日、

「ここで休憩タイムー・・・あー疲れた・・・」
「そんなこといって、笹原さんが休みたかったんでしょう?」
と私はいってみる。

「うん・・・」
と、そのまま返してくる・・・
笹原さんは今まで人にあまり嘘をついたことがないみたいです・・・
何か嘘をついても、むずむずして話さずにいられないとか・・・

嘘も方便というんですけどねぇ・・・


「大学受験ってどうでした?」

私はちょっと気になる質問をしてみました。
笹原さんがなぜ音大に入ろうと思ったのか・・・気になったからです。

「うーん・・・僕はとにかくフルートで有名になるのが目的だからね・・・それなりにできたから
推薦とかもらえたからよかったねー」

そっそれはすごいことだと思いますよ!?笹原さん!!

「フルートが好きだし・・・これ以外しようとも思わないし・・・やれっていわれてもフルート以外
やらないつもりだよ」

なんだかわかりませんが決意のようなものが感じられました。
言っていることは、笹原さんらしくありませんでしたが・・・
なぜそこまでフルートにこだわるのかは聞けませんでした・・・

「アケミちゃんはなんで音大に行きたいの?」

と笹原さんは問い返す・・・

「わたしは・・・」

なんでだろう・・・考えたことはあるんだけど・・・
なんか笹原さんと話しているうちにその考えは頭から抜けていた・・・

「わたしは・・・音楽が好きだからだと思います」

私は当たり前とも言えることを言っていました・・・
音大に行きたいのは音楽が好きだから・・・

少なくともそう考えていない人は音大にははいらないし・・・

「そうか・・・いいことだよ・・・それは・・・」

でも笹原さんは笑顔で頷いてくれる・・・


あっ・・・
初めて気がついた・・・笹原さんは笑顔の中に少しだけ陰りのようなものがあることを・・・
何がそうしているのかわからないけれども、その笑顔には笹原さんの本当の笑顔は無い・・・
本人も気づいていないと思う陰りがある・・・


そのあと、何事も無かったように再開される授業・・・
笹原さんの顔にはいつも陰りがあるということを私は気づいてしまいました・・・




それからなんだか、笹原さんのことが気になり始めました。
その顔の陰りは何から来ているのか・・・
私で取り除いてあげることはできないのか・・・





笹原さんがある日、DVDを見ることを聞いたので家族一緒に見ていました。

そうして、その映画が終わったあと、笹原さんのようすがおかしいことに気がつきました。
普通の顔をしながらも、顔は涙でぬれている・・・



その夜・・・笹原さんの部屋からフルートの音が聞こえてきました・・・
その音は・・・その曲は希望や期待を表す曲なんだろうけれども・・・
とても、悲しい曲にも聞こえました・・・



私は・・・何もできないということが少し悔しくなりました・・・
そばに何かを悲しみ苦しんでいる人がいることを知りながら・・・その人を助けられない自分に・・・





ある日、玄関で笹原さんに会いました。
「おかえりなさい。笹原さん」

私は笑顔を造って言う。
せめて私は本当の笑顔を・・・

「アケミちゃん、明後日ってー・・・暇?」
と突然切り出す笹原さん・・・


「えっ?ひまですけど・・・」
いきなり言われてびっくりした・・・
あさっては何の用事もないのでそのまま返した。

「僕の友達が映画に行かないかって・・・アケミちゃんどう?」
と笹原さんは言う・・・
これって・・・俗に言うデートのお誘いみたいなものでしょうか?
付き合ったことがないのでわからないのですが・・・


「いっ行きます!」

あれ・・・何の考えもなしに出たセリフ・・・
なんでだろ・・・
そんな話を切り出した笹原さんも驚いていました。

「・・・なんて?」
「行きます!」

私ははっきりと答えた・・・
この言葉も考えなしに出た・・・
私は何をしたいんだろう・・・

「嫌なら無理してこないでもいいんだよ?受験勉強とかで・・・」
「何ごとにも休息は必要です!それに・・・笹原さんも行くんだったら・・・」
と言った途端、私は頭の上に考えが浮かんだ・・・

映画にいく楽しみと、笹原さんと話をすることができる喜び・・・それが頭の中にある・・・
顔が赤くなるのがわかる・・・

私はなぜか恥ずかしくなり、部屋に駆け込んだ。


扉を閉めて考える・・・

私は笹原さんを何かから救ってあげたい・・・
できることかはわからない・・・でもその顔の奥に潜んだ陰を取り除いてあげたい・・・
そう思っている・・・




できるかどうかはわからない・・・でも・・・私は・・・



私は・・・笹原さんの本当の笑顔が見てみたい







私はその日、決意しました・・・
笹原さんがこの家を離れていく前に一度でもいいから本当の笑顔をさせてあげようと・・・

見せてもらおうと・・・

笹原さんにどんなことがあったかはわからないけど・・・私は・・・







                     笑顔の人が好きですから








終わり




ウッチー さんのリクエスト、「笹原君とアケミちゃんのお話」でしたー。
実はこのあとの話も考えていますがすいません、本編の話になってしまうのでやむなくカットということで・・・

アケミ視点でやってみましたがどうなんでしょう・・・うまく書けたんでしょうか・・・
やむなくカットした話もアケミ視点でやっていくのでそちらもお楽しみにー
 
 
 
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