BATON
私は小さいころ、ある音楽番組をたまたま見ていた・・・
その音楽番組には、私よりちょっとだけ歳が上の女の子が銀色に輝く笛を持って立っていた。
あの笛はなんだろう?と、私は笛の美しさに見とれていた。


私はなぜか、チャンネルを変えずにその番組を見ていた。
いつもならアニメやバラエティ番組を見る時間だけど、この日は違った。


何かわからない説明が終わり、その笛を吹く準備をする女の子。
その女の子にはまだその笛が大きいらしく、体とその笛の大きさがミスマッチだった。

女の子はステージに立ち、一度深く礼をして笛に口を当てる。



その瞬間、私はその子の笛の美しさではなく、その子の音に聞き入っていた。
なぜだかわからない。
聞いていると心が穏やかに・・・すごく不思議な感覚になる・・・

その子の曲はどれほど続いていたのだろう・・・
私はすぐに終わってしまったように感じた。
もっとこの音が聞きたい。
もっとこの子の音が・・・

私は、この子に会いたいと思った。

会って、音を聞かせてもらいたいと思った。


この子の音に私は恋をしたのだ。




Story Of Sagano 〜音楽〜



「ミユ、フルートがほしい!!」
私が言ったはじめての親へのわがままだった。
「いいよ」
父さんはすぐに買ってくれた・・・

物分りがいいというか・・・
なんか張り合いが何もなかった・・・
フルートがほしい理由とかをあの子の音を聞いた夜からずっと三日間考えていたのだ。
フルートは高いものだし、理由がなきゃ絶対に買ってくれないと思ったからだ。

しかしこの反応・・・
逆に私はちょっとむかっときた・・・
だが、フルートが手に入るといううれしさがはるかに勝り、私は飛び跳ねて喜んだことを覚えている。



フルートを手にして、早速音を出してみる。
あの音は出ない。
というか、まともな音も出ない・・・
「あっあれぇ?」
私は何度も挑戦した。
しかしいっこうに思ったように音が出ないのだ・・・

一瞬音が出ることもあったけど息が続かない・・・
すぐに酸欠状態になった。


「ミユ、フルート習いたい!!」
私が言った二度目のわがままだった。
「いいよ」
そうくると思っていた。
だけど少し寂しく感じるのはなぜだろう・・・


いきなり空きビンを教室で持たされた。
「さあ、まずは音の出す練習です。ボォーって音が出たらそれでオッケー!!さあ吹いてみよう!!」

ボォー・・・
「OK!!これと同じ用にして息をフルートの歌口に当ててみて!!」

私は言われたとおりにその口でフルートの歌口に息を吹き込む。
すると前よりは綺麗な音がかすかに出た。
「毎日練習すればもっといい音が出るようになるよー!!がんばってね!!君は筋がいいからいつか
黒崎さんみたいにふけるようになるよ!!」
といわれる・・・
「黒崎さん?」
私は尋ねる。
「うん!!黒崎さんは君よりちょっと年上の子でね!!それはいい音が出せる子なんだよ!!」

その言葉はとてもやる気を出させてくれた。



私は毎日練習した。
あの人のような音が出せるように・・・
黒崎さんのような音が出せるように・・・

しかし・・・いつまでたってもそのような音は出なかった・・・


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