BATON
〜約束・前編〜




「だーれだっ?」
いきなり視界が閉ざされる。
こういう時は聞こえてきた声でしか判断できない。
でもそれだけでも誰だか分かるので僕は答えた。
「アカリちゃんでしょ」
「ぶー」
あれっ?間違った・・・
「降参・・・誰ですか?」
手が離れて僕は振り替える。
そこにいるのは尚人さん。
尚人さんの肩にはアカリちゃんが・・・
「だーれだっ?ってその声の人を当てるものだと思うんだけど」
「そーなの?」
「それじゃなきゃ当てられないよ」
「それもそっか。次は声色使ってやるよ!」
拳を作り決意を見せる。
「ははっ、頑張って」
と言うしかなかった。
尚人さんは一人ぽつんと立つ。
会話にはいれないでいて悲しそうな顔をしていた。


今日は土曜日、授業はなくてとっても暇。
・・・DVDでも見るかな。
いつか買ったDVD、なぜか封の切られていないDVD・・・

ってもう夜なんだけどね。
夜に見る感動ものの雰囲気はまたいい。
感情が素直に出てきて、より映像にのめりこめるって感じ。



ということで自分の部屋で見ることになったんだけど。

なぜかみんな集まっている。
以外とみんな映画好きなのか?
それにしてもサトシ君がここにいることがなんというか・・・ふしぎ?

「じゃー始めますよー」
スイッチオン!
「スイッチじゃありませんよ」
感情をよんだのか!?サトシ君?



内容は主人公は男子高校生で吹奏楽部に所属していてパーカッションをしていた。
しかしある事故で彼は左腕に怪我をしてしまい彼はスティックが思うように使えなくなっ
てしまう。
彼は絶望し、何もかもに投げやりになってしまうのだが、まだ吹奏楽をあきらめられな
かった。
そんな時、ある吹奏楽の女子生徒がある提案をする。
それは指揮者をするという提案だった。
彼女は彼に指揮棒を渡す。
指揮は先生がやっていたので場所的には何の問題もない
彼はパーカッションをしていたのでリズム感があり、助ェに指揮をする才狽ェあった。
最初は拒んでいた彼だがやはり吹奏楽への情熱は捨てられなかった。
彼は吹奏楽部へ戻ってきた。
指揮をするも思うほど易しいものではなく、かなり厳しいレッスンとなった。
彼は頑張った、という言葉では語り尽くせないほど努力をし、苦痛を味わった。
しかし、彼は最後までやり遂げ、吹奏楽部の人達とともについには大会で金賞をとるほど
になった。
彼は何年か後、使い古された指揮棒を持ち、あるステージに立つ。
彼の仲間には吹奏楽のメンバーがちらほらと、もちろん指揮者への道に導いてくれた彼女
もいる。

そして彼は指揮棒を振り上げる。



彼らの合奏で、エンディングロールが始まる。



・・・・・

後ろを向いて見たらサトシ君が、
「わりといい映画でした。ありがとうございました」

と高評価。

他の人は・・・
「アカリ分かんなかった!」
「ううー。よかったよぉー」
「・・・・・」
「最近よく見る青春ものですね。私も昔はこんな青春時代を過ごしていたなー。もうすご
かったんですよ私の高校時代、一度に5人の人に告白されて・・・」


翔子さん、以外と喋る人だ・・・


それにしても・・・

この映画は・・・

高校のころ・・・


僕にはある先輩がいた。
彼女は黒崎恵(くろさきけい)という名前だった。
彼女はフルート奏者だった。
彼女は吹奏楽部の希望の星、と言ってもいいくらいの腕前だった。
それなのに・・・


あっ・・・
僕は目から涙を流す。

流れる涙は感情からではなく、自然と、ごく自然と流れる。
とめどなく、少しずつ流れていく。

不思議そうに見るみんな。
「ごめん、ごめんなさい・・・あれっ・・・なんでないてるんだろ・・・」

僕は無理に笑顔を作る。
だけど、涙は止まらない。

みんなは僕の部屋からでていく。

僕は一人残る。
どうしたんだろ?ぼく、ほんとに・・・


僕は吹奏楽部に所属していた。
しかも男子ではあまりいないフルートで所属している。

友達からはイメージあわないーとか言われる始末。
でも僕はこの澄んだ音が好きだ。
僕自体はフルートがうまいと言うほどではないけど、フルートの音に惚れたと言うのか、
その音を出したいと思い、その楽器に決めたのだ。
そのフルートの組にはある有名な奏者がいた。
中学時代に外国にも行ったりして、幾つもの賞を取っているらしい。

彼女の名は黒崎恵。
なぜかこの田舎にある学校にいて吹奏楽部に所属していた。
僕はもう入った時はどのつくほどの素人だったので、1音も吹けはしない状態だった。
「あーあ、そんなんじゃダメダメ!フルートに対する侮辱でしかないわ」
そういわれると元も子もない。
「しょーがないじゃないじゃないですか。僕、初心者なんだから」
僕は正直に言う。
「しょしんしゃ〜?はあ。なさけない」
なにがですか。
「せめて一つの音くらいまともに出せるようになりなさい」

ムカッとくる。
先輩は何年かやってるんだろうが僕は始めてだぞ?
そりゃ僕もどん臭いかも知んないけど、そんな言い方しなくてもいいと思う。

僕はその日帰ってすぐにフルートを取り出し、練習に励んだ。


先輩をみかえしてやる。ただそのことを思って。



一か月後、



「ねえ、ササ」
黒崎先輩は言う。
「何ですか先輩、またダメだしですか?」
僕はうんざりしていた。
先輩のダメだしはいつも適格なんだけどかなりきつい言い方で、正直怖いくらいだ。
「いや、そうじゃなくて、一か月前に比べてだいぶ上達したじゃん!やるねー」
予想だにしなかったセリフ。
僕はキョトンとなる。
「よしよし」
頭をなでられる。
「えったっわっ!!なっ何するんですか!」
「えらいえらい」
「僕はもう高一ですよ!そんなのはずかしいですよ!」
「むーじゃあこっちだー!!」
先輩は僕の首に手を回して、ロック。
「ぐっ!しっしぬ!」
「うれしいなら嬉しいと言えー!」
「ううっうれじいでずぅ!!」
ぐぐっ!!まじで死ぬ!
とおもったところで首にある腕の力が抜ける。
「よしっ、じゃあがんばったお礼にこれから暇な時は練習付き合ってあげるよ〜」
「ええ〜」
「もんくある?」
「ありません先輩」

「そこっ!ちがうっ!ああーどうしてできないかな!?ササは下手だな〜」
「そんなこといわれても・・・先輩のようにはまだまだですよ」
「ササが私のレベルに達すると思ってんの?五年早いっ!」
ううっ妙に現実を突き付けられる年数だ。
「そう思うんなら違う人教えてあげてくださいよ」
僕はふてくされてそういう。
すると先輩は、
「いーやー」
と即答。
「私はササを教えるのが好きなの!ササじゃなきゃからかいがいないし」
なんとまあ、
「からかわんといてください」
「いーや♪からかうー」
「やめてくださいよー」
そして自然と笑い会う二人。
なぜかわからないけど先輩にからかわれるのはいやじゃなかった。
なんというか、安心感がでてくるというか・・・
・・・・・・いや決して僕はそっちの気があるわけではなくて・・・




「ねえ、ササ?」
いつもとは違う声のトーン。
「なんですか?先輩」
僕はいつものように聞き返す。
「私って普通と違うのかな?」
といつもとはまた違う質問だった。
なんだ突然。
「まあ違うんじゃないですか?」
部活の時間が終わった後の会話。
いつもとは違う会話。
「先輩、普通の人よりも成績いいし、フルートもうまいし」
本心を言う。
その言葉を聞き、先輩の顔は曇る。
「そっか、ちがうんだ・・・」
悲しそうな声、そんな先輩の声は聞きたくなかった。

「でも」
僕は声をあげる。
「普通って何でしょうね。何を言うんでしょう?テストで平均点を取ることでしょうか?
家に帰ってテレビを見てご飯を食べて寝ることでしょうか・・・僕は普通って何か分かり
ません。みんな特別なものを持っているような気がします。先輩はフルート、僕は・・・
なんでしょうね。・・・ごめんなさい。僕にはないかも知れませんね」
自分で言っといて自分のが見つけられないなんてちょっとなさけないかも。
「ササはやさしいんだよ」
先輩はとても優しい声で言う。
「ササは他の人よりほんの少し優しい・・・だからみんな君に寄ってくるんだよ」
うーん・・・そうなのかな?
「だから・・・私は・・・」
先輩は何かいおうとして口をつぐむ。
そして、
「ササさっきごめんなさいって言ったでしょ!」
いきなりいつもと同じ調子に戻る。
「はっはい!?」
「謝られるのは嫌いー!ありがとうで返しなさい!」
「えっなんで?」
「それは君が悪いと思ってるんでしょ?そんなの私もササもいい気がしないじゃない。」
まあそうだよね。
「だから、ごめんなさいよりありがとう」
「でもそれって文脈変になるんじゃ・・・」
「先輩の言うことはきけー!」
僕の頭をつかみ先輩はその頭に手を添え、というか押しつけて、
「グリグリ攻撃ー!」
「先輩、ごめんなさい〜」
「そうじゃなくて」
「あっありがとう?」
「ならもっとやってやろー♪」
「そんなむちゃくちゃなー!」
僕は先輩の手から逃れることはできないでいた。

その時、顧問の先生が来て、
「おらー、しめるぞー。イチャイチャしてないで早くでろー」
「はーい」
先輩の手が離れる。
助かった。

しかしイチャイチャって古いなー
いや・・・グリグリ攻撃も・・・

「ねぇ、ササ?」
先輩の声、この声の時は何か頼みごとをする時のトーンだ。
「なんですか?またあのお店いこーとかですか?」
先輩はふるふると首を振る。
「違う違う、そうじゃなくて・・・ここにある映画のチケットがあります」
「ふむふむ」
「だけど私は二枚持っています」
「なるほど」
「だから日曜とかどうかなーと」
日曜、何もない。
まさか・・・僕のことを誘おうと?
「いいですよ!!特に何をしようともしてませんし!!」先輩はニヤリと笑う。
「誰がお子ちゃまのヒロ君を連れて行くと言いましたか?」
えっ!
「ちっちがうんですか」
がっかりした。なんでだろ少しイラついている。
「なーんて冗談、ササ以外誘う人なんていないよ。行こっ♪」
僕は一瞬にして心のもやもやが吹っ飛ぶ。
「あっありがとうございます!」
今気付いた。
僕は先輩のことを思ってる。
好きだと思ってる。

「いっいやー、そういわれると照れちゃうじゃん」
と先輩は顔が赤くなる。
他の部員の人は羨しそうに僕を見る。(男女問わず)
でも僕はそんなことも気にならないほどうかれている。


僕はその頃が一番今までの人生の中で楽しかった。
・・・そしてその後一番今までの人生のなかで・・・



 act7へ続く

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